Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

ウズベキスタン(4) 宗教都市ブハラ

11/2

終日ブハラ観光

Emir 泊

 

本日は終日ブハラ観光の日である。

古い街並みや城塞、バザール、そしてチンギスハン襲来以前の建築もいくらか残されたイスラム色の濃い宗教都市を散歩する。元々ブハラというのはサンスクリット語で「僧院」を意味し、イスラームの影響を受ける前はインド文明の影響下にあった地域である。

朝はホテルの地下室にある食堂でゆっくりとビュッフェ。朝食のクオリティはなかなかだ。体格の良いロシア人の団体客が来ている。話を聞いてみると昔はテニス選手だったのだという。しかしまあ、随分と横に太い(笑)

朝8時半ごろから散策開始である。今日もどんよりとした曇り。リャビ・ハウズを通りすぎ、モスクやバザールのある西の方に向かう。まだバザールが開いておらず、人通りもそれほど多くない。おや?市役所の建物の近くでおそらく遠足か何かだろう、地元の子どもたちの集団に遭遇。子供たちの顔も目鼻立ちのはっきりしたコーカソイド系の顔、モンゴロイド系、明らかにロシア系と多種多様。皆異国からきた人に興味津々だ。学校の先生と思しき人からは

「どこから来たの?」

ウズベキスタンはどう?」

などと色々質問攻めに遭う。どういうわけか記念写真を撮ってもらった。

イランの時にも書いた気がするが、異国の人に対してどこかよそよそしい態度を取る日本人と比べるとフレンドリーさが顕著である。他者に対してもっと興味関心を持って積極的に接した方が、接する側も接される側も楽しいと思うが、そういう心がけは意味のないことだろうか。少なくとも自分はこういう異国の地で歓迎されたら嬉しく思うけどな。

この辺りには地中から掘り出されたモスクであるマコギ・アッタリ・モスクがある。その歴史は6世紀に建てられた仏教寺院に遡るというが、デザイン的にはかなり地味なモスクだ。周囲には謎の遺跡の遺構があるが、その由緒が書かれた看板は適当に見ていたため記憶に残っていない。

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マコギ・アッタリ・モスクと何かの遺跡

この辺りの通りは北西の角にあるタキに一旦収束し、1本の通りにつながっている。木彫り細工や真鍮細工、そしてスザニの並んだ美しいバザールを横目に見ながら、この通りを北に向かうと別のタキに出る。ここのタキでは美しい青色をしたブハラ絨毯や、ツイッターで目撃した陶器のクリスマス飾り(おそらくロシア支配の影響だろう。しかし模様にはイスラム風の趣が感じられて面白い)などが売っている。ブハラ絨毯は2x1メートル程度で600ドル程度。誠実な感じの男性店員の話を聞くと、ブハラ絨毯はイランのそれに比べると「目」が荒いため値段が安いそうだ。鮮やかで落ち着いた青の色調には惹きつけられるものがあったが、残念ながら持って帰る手段がない。ちょうど良い大きさでそこそこ芸の細かい絨毯をと探したが、結局手頃なものは見つからなかった。

さて、この絨毯屋のあるタキはタキ・ザルカロンというらしい。ネットには手前にタキ、遠くにカラーン・ミナレットが聳えるブハラの風景を写した写真が転がっているが、実際なかなか見事なもの。この付近は15世紀の創建であるウルグベク・マドラサと、その向かいにあるアブドゥルアジズ・マドラサが並んでおり、荘厳な町並みを作り出している。これらのマドラサの中を覗いてみると、中は寂れたバザールとなっている。(のちに観光することになるサマルカンドの有名なレギスタン広場と比べても明らかに)修復されずに朽ちるに任せられた装飾は少し物寂しいものがあるが、かえって歴史を感じられるという説もある。

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遠くにカラーン・ミナレット

ウルグベク・マドラサはブハラで最初に建設されたマドラサ。装飾には乏しく質実剛健ティムール朝時代の建築である。向かいにあるアブドゥルアジズ・マドラサはウルグベク・マドラサ建設の200年後に建てられたそうだが、エイヴァーンに見事なムカルナスの装飾が施されている。修復されず大分色褪せてしまっているが、時の流れとイスラーム建築美術の変遷を垣間見ることができる。

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土色の町並みと、ウルグベク・マドラサ

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ムカルナスの装飾が施されたアブドゥルアジズ・マドラサのエイヴァーン

ここから少しで昨日の夜にも散歩した、カラーン・ミナレットのある広場に出る。まだ朝早く人はまばら。さらに西に進みアルク城の横を通り抜け、歩くこと数キロ。緑多い公園の道を歩いていくと、ブハラ観光の目玉の一つである、イスマーイール・サーマーニー廟に至る。

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アルク城の脇を通って、廟のある公園へ

このイスマーイール・サーマーニー廟は、アッバース朝の地方政権から生まれたサーマーン朝時代の名君イスマーイール・サーマーニーの廟とされている建築である。ほぼ立方体の建物の上に小ぶりのドームが乗っている。特にタイルの装飾もなされていないため一見地味だが、よく見るとレンガの並べ方で細かい装飾が形作られており極めて精巧だ。この建築はチンギス・ハン襲来時には砂に埋もれており、破壊を免れた。旧ソ連の時代に掘り出されたのだという。目の前にある立派な建築物も数奇な運命の末に目の前に立っているというわけである。

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イスマーイール・サーマーニー廟

 中に入ると、一面土色の壁の中に1つ、棺のような構造物が作られている。天井のドームは特に装飾はされておらず質素な雰囲気だ。外から見るよりも中から見る方がずいぶん立派である。

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廟の内装は質素だが美しい

さて、廟から出て公園に戻る。この辺りはブハラの街のはずれであり見所は多くないが、北の方にチャシマ・アイユブ(ヨブの泉)なる建築があるという。ガイドブックに取り上げられないような町中の細い通りを歩いていくと、道端のおじいさんに「どこから来たの?ようこそ!」などと話しかけられた。こういう邂逅はやっぱり楽しいよね。他人との接触を極力避けるよそよそしい国日本では決してできないような体験だ。おもてなしなどという言葉が空虚に思えてならない。

ここから程なくチャシマ・アイユブである。この建物内には湧水があって、ここの水は眼病に効くのだという。中には井戸があるが、そのほかには取り立ててみるべきもののない博物館のようになっている。普段は閉鎖されているらしい奥の棺が置かれたドームの部分にたまたま立ち入ることができたが、団体客のために解放したものらしく程なくして追い出されてしまった。

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チェシマ・アイユブと、中にある井戸

民族衣装を着たおばさんが柘榴などの農作物を売るバザールの横を通り過ぎると、ボラハウズ・モスクである。このモスクの前にあるボラハウズという池は工事中のようで、残念ながら水が抜かれて干上がっていた。全く絵にはならないが。

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彫刻されたクルミの細長い柱が何本も立つ入り口がとても特徴的だが、よくみるとこの柱、少し曲がっていたり傾いていたりして味わいがある。中に入ると白と濃い青を基調とした空間で、青い光で照らされ、美しいシャンデリアが吊り下がっている。見事なものだ。

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ボラハウズ・モスク

通りを挟んで向かい側にはアルク城がある。城と言ってもヨーロッパのそれのような装飾的な感じではなく城塞のような趣。正面入り口から入ると中は博物館のようになっており、ウズベキスタンの歴史を知ることができたが、こういう博物館系は何となく通り過ぎてしまうタイプの人間なので、あまり記憶に残っていない。

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アルク

もと来た道を戻り、再びカラーン・ミナレットのある広場へ。昨日は入らなかったカラーン・モスクを見学する。モスクの内部は大きな広場になっており、正面のエイヴァーンは壮大だがムカルナスの装飾はほとんどなく、質実剛健な趣だ。ここでヒヴァで出会った日本人カップルに再会。彼らは電車に乗ってきたそうだ。裏手のトイレを拝借したが有料であった。

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カラーンモスク
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カラーンモスク

 

午前中に近辺を散策したウルグベク・マドラサとアブドゥルアジズ・マドラサの扉が開いていたので、内部を見学する。まずはウルグベク・マドラサ。ブハラでもっとも歴史のあるマドラサであるというがとても小ぶりなマドラサである。修復があまりされていないのか、多くのタイルが落ちてしまっている。アブドゥルアジズ・マドラサも同様、装飾タイルや彩色が落ちてしまっており、礼拝所と思われるホールの壁は一部にひび割れが見られて少し痛ましい。ここで店をやっている謎の地元のおばさんによくわからない説明をされて時間が過ぎてしまったが、こういう時間もまあ良いものである。

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ウルグベク・マドラサとアブドゥルアジズ・マドラサ

バザールでは何点か買い物をした。一つは陶器のクリスマス飾り。これはTwitterで流れてきた写真を見て知っていたので、一つは買おうと思っていた。ぶっきらぼうなおっさんと値段の交渉をする、25ドルだというがもう少し安くならないかと訊くと、「君の値段を言え!」という。そういうことで、20ドルでお買い上げ。次は大きなスザニ。日本語も話せるという女性店員が営む、地球の歩き方にも紹介されたお店だが商売っ気が強くなかなか負けてくれない。気に入った白地に青い柄のものは200ドルで購入した。描かれている柘榴は豊穣の象徴らしい。自分は愚直すぎてどうもこういう駆け引きはあまり得意ではない、絶対にもっと上手い人がいるはずだ。

バザールのある通りのカフェでカプチーノとケーキを食べて休憩をしたのち、リャビ・ハウズを挟んで反対側にあるチョル・ミノルに向かう。このカフェはタキを改装したもので、イスラーム建築を楽しみながらゆっくり時間を過ごすことができた。

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バザールで売っているおみやげと、カフェの内部

朝は曇っていた空も次第に晴れてきて、澄んだ青空が美しい。土色の煉瓦と青緑色の尖塔が空の青に映える。

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空の青い光に照らされて色鮮やかになったナディール・ディヴァンベギ・マドラサの偶像装飾の門を入ると、比較的活気のあるバザールになっている。اللهやمحمدといった文字が刻まれた真鍮細工や銅細工、スザにのお店、木彫りの皿…実に多種多様なものが売っておりとても楽しい。木彫りの皿の模様が美しいと思い店番をしている少年に色々と話をする。70ドルと言っていたお皿だが、店の奥に潜むマスターと相談の上、60ドルにまで負けてくれた。なぜウズベキスタンに?と聞かれたので、イスラム文化に興味を持ったこと、アラビア語を勉強していることなどを話すと、彼は右手を胸に当てて敬意を示してくれた。自分のやっていることがそこまで尊敬されることなのかはわからないが、まだ少年なのに自分たちの文化を理解しようとする人間に敬意を示そうとするその姿勢には大変心を打たれるものがあった。

確かにイスラームというだけで過激思想だとレッテルを貼ったり、外国をアミューズメントパークか何かと勘違いしてうかれ騒いで帰っていくだけの人々も多いのだろう。そこには自分達の属する社会とは違う文化、宗教を持つ人々がいるということから目を背けている。それはとても悲しく、貧しい楽しみ方だと思う。

旧市街の少しゴミゴミしたところを歩いていくと突然チョル・ミノルのある広場に出る。これはトルクメン人の商人が建てたものだというが、なかなかに個性的な建築だ。

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チョル・ミノル

かなり歩いたので、ホテルに一旦戻る。中庭で休憩していると、気前の良いマスターがお茶と茶菓子を持ってきてくれた。ここのホテルはbooking.comでも大変評判が良かったが、その理由がわかる気がする。ゆっくりしていると、「もう一杯要りますか?」と。いや、もう大丈夫です。本当にありがとう。

 

夜は近くのレストラン、チャイハナ・チナルへ。プロフを注文した。米、人参、肉、ウズラの卵…乗っている具材が明らかに新鮮で調理も素晴らしく、とても美味しい。この旅行では結局何度かプロフを食べたものの、値段と味を考えるとこのお店が一番良かった。近くに座った日本人夫婦の観光客が「お釣りはもらえないんだねー」と言っていたが、外国ではお釣りをくれと言わないとお釣りは出てこない。暗黙の了解というのは海外では通用しないので、そういうのは全て言葉に出さないといけない。コミュニケーションの手間を惜しむと損をすることになる。

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今回の旅行で一番のお店、チャイハナ👌・チナル

少し休憩して、夜散歩へ。「イスマーイール・サーマーニー廟は夜に見るのが美しい」などとガイドブックに書いてあるものだから、2キロほど離れた廟までまた歩いて行ってみることにした。途中で少年に話しかけられるが、ハガキ売りの少年だった。暗い公園の道を歩いていくと、ライトアップされた廟。夜にわざわざ見に来るほど美しいかどうかは微妙だが、まあ良い体験になった。アルク城にはラクダの装飾が浮かび上がっている。

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夜のイスマーイール・サーマーニー廟と、アルク

ホテルに帰って就寝。