Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

メキシコ(1) 3年ぶりの異国の地へ

1日目

 

2/18

1650 NH180 成田

1440 メキシコシティ

カミノレアル・アエロプエルト泊

 

スカイライナーに乗って、成田空港第1ターミナルに到着した。

この場所を踏むのは実に3年ぶりである。思えばこの3年は本当に激動というか、浮沈の激しい3年間であった。3年前自分は全てを失った。好きな人を失い、皆仲が良かったはずの親族同士の関係はあっけなく破壊された。大切にしたものがガラガラと音を立てて崩れていった。最後の砦であった海外への旅すら、新型コロナウイルスという未知の脅威によってあっけなく奪い去られてしまった。そこからの数年間は、先の見えないトンネルの中を行くようだった。時間が経ってもなお、あの時の絶望的な気持ちを思い出すことがある。

 

自分が本当に前に進んでいるのか、終わりがあるのかすらわからなかったあの頃と比べると、今は本当に一応全てを手に入れたというか、理論的には幸せということになるのだろうが、私にはまだその実感がない。成田空港の国際線ターミナルに着いたらきっと色々と感情が溢れて泣いてしまうだろうと思ったが、そんなことは起きなかった。どこか淡々とした冷静な自分がいた。

 

国際線の空港は何年ぶりだろうか。隔世の感がある。

 

メキシコの旅はマイルが溜まっていたので、往復どちらも特典航空券である。直前の予約ではあったものの、行きはプレミアムエコノミー、帰りはビジネスを押さえることができた。ラウンジを利用することができるというので、ビュッフェで食事をとって休むことにした。

ラウンジでは日本人の他に大きな声でスペイン語を話す老年グループがいる。スペイン語話者というのは、他のヨーロッパ諸国にありがちなどこか他人を見下すような雰囲気があまりなく、田舎のおしゃべり好きな人々といった趣がある。しかしながら下品な感じはしない。この時間帯にいるスペイン語話者はほぼ自分の乗り込む予定のメキシコ便に乗る人だろう。

メキシコというのは中南米では比較的豊かな国ということになるが、国全体では決して豊かな(少なくとも数字上は)国ではない(尤も世の中GDPだけで豊かさが測れると思ったら大きな間違いであることは、今までの旅行から自分が学んだことである)。海外に旅行に行ける人々というのは限られるはずだ。彼らも所謂富裕層というやつに違いない。

搭乗時間になると、ある意味予想通りというか、スペイン語を話す老年グループはビジネスクラスの優先搭乗に吸い込まれていった。まあそうでしょうねといった感じがある。本来白人というのはスペインの10%もいないはずであるが、メキシコ便を待つ外国人客は多くが白人である。こういうところにすら既に国の実情というのは残酷にも顕在化するものである。

メキシコシティ便のボーイング787

 

プレミアムエコノミーとはいえども膝がつかえない程度のシートピッチがありそこそこ快適である。出発直前に買った、頭から被るベールのような道具がいい感じに遮光してくれた。1回目の機内食を食べたのち、消灯。外は真っ暗で、ボーイング787の遮光機能がMAXに機能しているのだと思っていだが、どうやら太平洋上を飛行しているから本当に真っ暗ということのようだ。

飛行機からの美しい朝焼け

 

気がついたらかなりの時間が経過していて、2度目の機内食になった。機内のCAに尋ねるとカボスジュースなどというのがあるらしいので飲んでみる。グレープフルーツジュースから苦味を除いて、甘味を足したような感じの味でとても美味しい。CA曰く

「美味しいですよねー!私も機内の飲み物の中で一番好きです!」

とのことであった。

日本の航空会社を使うと海外旅行が現地に着いた時から始まるようで、ちょっと勿体無いと思って敬遠していた部分があった(そもそも最近JALANAが就航している国に旅行していなかった)のだが、やっぱりCAの日本人流の気の利かせ方はどこか慣れ親しんでいるものがある。いろいろな航空会社を見ていると、一つの国として日本というのはまあ、悪くないのかもしれないと思った。

隣に座っていた白人が興味を持ったようで、カボスジュースを試していた。彼の口にあったようなので、ちょっと彼と話をしてみた。穏やかな雰囲気の優しそうな男性だった。年齢は自分と同じか、少し上だろうか。

「メキシコのお方ですか?」

「ケレタロという、メキシコシティから3時間くらいのところに住んでいます。」

「メキシコの歴史は大変興味深いですね。アステカ王国の歴史など、とても興味があります」

「国立人類学博物館に行くと良いですよ。あそこには面白いものがたくさんあります」

2月24日、メキシコシティの観光の際に訪れる予定である。

「どちらの都市に?」

プエブラ、クエツァラン、そしてメリダを拠点にチチェンイッツァなどに」

クエツァランという名前を出しても大して驚きはしない様子だった。意外と現地の人の中では有名なのかもしれない。

メリダはとても美しい町ですよ」

この選択肢の中で、地味な気がするメリダを一押ししていたのが意外で、印象的だった。

「本当はペルーに行く予定だったんですが、デモが激しく急遽変更してメキシコに来ました」

「ペルーは行ったことがあります。ペルーもいいですけど、メキシコもとても良い国ですよ」

 

 

それにしても最近の機内食は美味しい。果物の酸味とか野菜の新鮮さとか、昔の缶詰では消えがちであった風味がしっかり保存されていて驚いた。技術の進歩だろうか?それともANAの謎の技術か。どちらにしても大変驚かされた。

パワーアップした機内食

 

飛行機はサンフランシスコやロサンゼルスの真上を通過して、メキシコシティに到着する。山がちな地形と盆地にへばりつくような町並みが見えてきた。到着である。

到着すると、案内はスペイン語ばかりで正直かなり面食らった。イミグレ周辺はかなりの行列になっており、入国審査の流れはかなり遅かった。同じ飛行機に乗っていたと思しき日本人のおばさんが話しかけてきた。

「日本の方ですか?」

「そうです」

「えーそうなんですねー良かった!いや実はね、あの飛行機の中に日本人は8人しか乗ってなかったみたいなんです。他は全部メキシコ人だって。」

などといってご自身の海外旅行歴を長々と話し始めた。医者夫婦で、本人は結婚を機に週2日検診部などで働いており、暇さえあれば海外旅行という感じのようだ。「あんまり他の人に海外旅行の話すると自慢だと思われるし、できないんです」と言いつつ、自分の旅行について熱く語っているのが印象的だった。

 

いかにもメキシコ人といった風貌のメスティーソ感のある入国審査官の審査を通過する。入国審査に1時間ほどかかったからか、既に荷物のベルトコンベアは止まっており、回収された荷物が横に並んでいた。近くにいたスタッフは英語が流暢で親切であった。彼に両替所とSIMカードの場所について聞き出し、両替へ。

メキシコシティの空港に到着。まずはTelCelへ

 

両替オフィスは空港敷地内に1個、外にはたくさんあり、外の方がレートが良い。あまりに多くの両替所があるが、自分は1ドルを18.41ペソに変えてくれるところで両替した。なるべく細かいお金にするようお願いしたところ、両替所のお姉さんが苦笑していた。笑。

次はTELCELへ。両替所は1階の方がレートが良いが、TELCELのオフィスは2階にある。ひとまず4G、300ペソのものを選ぶことにした(この選択は後で容量不足に苦しむことになる)。

 

本日の宿、カミノレアル・Aeropuerto Mexicoは、大通りを挟んで空港と直結している。外観はなんだか安っぽい雰囲気もあるが、中は吹き抜けになっており開放的だ。チェックインして部屋で少し休む。

ホテルの部屋の雰囲気。部屋からは空港が綺麗に見える

 

正直海外旅行というのは外に出るたびに消耗するから、もうすでに外に出たくないのだけど夕食にはありつかなければいけない。食べ物は空港で探すことにするが、色々店がある一方でどれがおいしく手頃な値段なのかわからず、フードコート周辺をぐるぐる回る。

 

結局ネットでそこそこ口コミの良かったタコス屋「Taco Inn」で185ペソのタコスを頼むことにした。注文して5分ほどでタコスを作ってくれる。テイクアウトをお願いしたが、店の人はあまり英語を解しないようだった。とりあえずテイクアウトがPara illevarであることを覚えた。ジュース調子に乗ってチリソースをかけすぎて、ホテルに戻って食べた時に辛すぎて大変だった。

この日の夕飯はタコス。青唐辛子ソースをかけ過ぎた

本日はここまで。明日から本格的な旅行ということで、寝る。