Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

メキシコ(4) ケツァールの地

2/21

0800 CAPU

0855 CAPU発 VIAにてクエツァランへ

1300 クエツァラン着

Posada la Plazuela泊

 

本日はクエツァランに移動する日である。

クエツァランとは、「ケツァールの土地」を意味するらしい。ケツァールとはアステカ王国ケツァルコアトルの化身と言われ、その羽は王が身につけるものとして大変に珍重されていた。今はこの地域には残念ながらケツァールは生息していないようだが、かつてはその鳥が生息する地域として神聖視されていたようである。

クエツァランという都市聞いたことのない人の方がきっと多いのではないだろうか。おそらくこの名前を知っている人は余程のメキシコ通であると思う。私がこの都市の存在を知ったのは極めて偶然であった。

プエブラについて紹介しているページを探していたところ、緑の多い山の斜面に佇むこぢんまりとした聖堂と美しい町並みの風景写真を貼ってあるホームページに行き当たった。プエブラというのは火山に囲まれた平原にある町だから、これがプエブラであるはずがない。そう思って画像検索をかけたところ、どうやらこれはクエツァランという町であるらしい、ということがわかった。この町について調べてみると、ボラドーレスをはじめとしたトトナカ族の文化が色濃く残り、町の周囲は滝や植物園をはじめとして自然が大変豊かで、近郊にはちょっとしたピラミッドの遺跡があるという。大変興味を惹かれた。

 

元々、日本で出版されているメキシコのガイドブックはやたらと「ガイコツや鳥の羽の衣装などのアステカ文化をポップにした感じ」や、「カラフルでキュートな町並み」、「カンクンなどのビーチリゾート」を前面に出しており、何か物事の本質に触れてない感じがして、かなりの違和感があった。これはある意味メキシコの「よそゆき」の側面にすぎない。スペイン征服以前から住んでいる先住民が、頑なにかつての文化を守り生活している日常風景、そんな「着の身着のまま」のメキシコに触れたいと思っていた。そんな矢先この町の存在を知り、ぜひ行ってみたいと思った。

 

実際調べてみても情報は極めて少なかったが、Lonely PlanetではCuetzalanについて数ページ分割かれて解説がされており、一応ある程度の情報を得ることができた。ペルーからメキシコに計画を振り替える際に、2日目〜4日目を「クエルナバカ+タスコ」にするか、「プエブラ+クエツァラン」にするかで、かなり迷った。前者の方が一般的だし、情報量は多いし、何しろコルテス宮殿や銀山で栄えた町並みの美しさなど、旅行として失敗しないことが約束されていたからである。それでもこれは「スペイン征服後」のヨーロッパ風の観光都市であり、先住民の生活が見えてこないと思った。旅行会社の方には迷惑をかけたが、「クエルナバカ+タスコ」に決まりかけた寸前に「プエブラ+クエツァラン」に変更した、というわけである。

 

さて、本日も朝食をとりにレストランへ。朝起きると、お腹の調子は相変わらずよくないものの、発熱はほぼなくなっていた。ありがたい。朝7時の開店と同時に朝食をいただく。相変わらずEliceoが親切に対応してくださり助かった。せっかくなので彼と一緒に記念撮影をさせてもらった。しっかりと5ペソ分のチップを含んだ料金を最後に請求された。笑。

静かで落ち着いた、美しいホテルを去るのが少し名残惜しいが、荷物の準備をしてバスターミナルへ向かう。プエブラのバスターミナル「CAPU」であるがUberの地図ではCAPUの場所が分かりにくく、似て非なるCAPというトラックのターミナルを行き先に指定してしまったようで、運転手に「CAPU」に行きたいと伝え、ことなきを得た。60ペソ程度。

さて、まずはジュースや軽食を確保しようと思ったが、売店には明らかに体に悪そうなジュースや、怪しげなスナック菓子しか置いていなかったので残念ながらバス内では水のみの摂取とする予定とし、クエツァランへのバス便が出ているVIAのターミナルに向かう。このターミナルでバスを待つ人はほぼメスティーソと先住民の人ばかりで、観光客や白人はほとんどいない。この感覚、どこかで味わったような気がしたなあと思ったが、7年前イランを訪れた時、カタールの空港でイラン航空のターミナルに足を踏み入れた時の、あの感覚に似ていた。懐かしいなあ。言葉も通じないので不安であるが、少し昔を思い出してニヤッとしてしまった。VIAからは他にベラクルスやテシウトラン方面にバスが出ており、どのバスに乗り込めば良いのか非常にわかりづらかったが、子連れの親切な地元民がどのバスに乗れば良いのかを教えてくれた。

 

さあ、いざバスに乗り込む。バスはゆっくりとプエブラを離れていく。都会の景色は次第にメキシコらしい枯れ草色の平原と、散在するリュウゼツラン、サボテンの風景が広がり、雄大だ。

バスの車窓から、メキシコ高原の乾いた風景

何個か大きな尾根をこえて、サラゴサという都市をこえると次第に道が曲がりくねり、風景も山道となってくる。山間部の町・サカポアストラをこえると枯れ草色ではなく、鮮やかな緑色の山々が目の前に広がる。普段あまり写真では目にすることのない、見たことのないメキシコの風景に心躍る。ドライバーがかけるBGMも、気が付くと80年代のアメリカのポップスを焼き直したような音楽からメキシコ伝統のチャッチャカしたリズムのメロディに変わっていた。

緑色の山々が並ぶ風景は、別の国に来たかのよう

バスは尾根沿いにつけられた、やや道の荒れたワインディングロードをいく。あたりの植生は木生シダや常緑の植物が優占しており、木々にはたくさんの着生植物が生え、熱帯雨林のような風景。時折景色が大きく開け、対岸の尾根や小さな家並みが見え、ドラマティックだ。

クエツァランの標識が見えると急に舗装が綺麗になり、そこから30分から1時間ほどかけて、クエツァランの町の外れにあるバスターミナルに到達した。

ようやくクエツァランのバスターミナルに到着

バスターミナルから、スーツケースの車輪など何の役にも立たないような急な斜面につけられた道を5分ほど、この町の中心部に程近い噴水の目の前にある、本日の宿・Posada la Plazuelaに到着する。

宿ではいかにもメキシコといった趣のふくよかなメスティーソの女性が出迎えてくれた。最初に案内された部屋は窓のない1階の部屋であったが流石に陰気くささを感じたので、2階の窓のある部屋にできないか頼み、部屋を変えてもらうことに成功した。この部屋の窓からは、この町の象徴であるサンフランシスコ教会と、ベラクルスからメキシコ湾へ没していく山の斜面が見えている。

宿の部屋の窓から望む風景

滝や植物園・ピラミッドなど、遠出は明日にすることにして、本日は町を散歩することにする。屋根瓦と白・茶色で統一された壁、少しくすんだ石畳が緑色の山肌や遠くに霞んで見える海、青空と調和した景色はまるで絵画のように美しい。これはメキシコ中央高原という標高2000m以上の大きな高原が直線的に海に没していく独特の地形、そして緯度が低いことによる熱帯性の植生によって生み出されており、決してヨーロッパではみることができない風景である。なお、この地域は山の斜面にあって年中雨が多く、冬は非常に乾燥した気候となるメキシコ中央高原とは異なり、冬季にもそれなりの降水量がある。それがこのしっとりした風景を生み出しているのだろう。

宿前の噴水広場

町は人々でにぎわっている



ちょうど中学生だろうか、制服を着た子供たちが家に帰っていくのが見える。サンフランシスコ教会周囲の広場にはパラソルの下で先住民の衣装を着たお婆さんたちがたくさんの出店を出していた。物乞いの年寄りに遭遇したが華麗にスルーした。美しい町並みだが、難点があるとすれば少し野良犬が多く、たまにトラップのようにフンが散らかっていることだろうか。

教会前の広場。野良犬を多く見かける



本日は軽い町並み散策で行動を終えることにして、少し早いが近所のレストランに向かう。だいぶお腹の調子も戻り、まともなものが食べられそうだ。La peñaという雰囲気がよく開放的なレストランで、イナゴやアボカドといった地元の食材を使ったタコス(240ペソ)を注文する。喉が渇いていたので、合わせてパッションフルーツをベースとしたオシャレな飲み物(80ペソ)を注文した。少し量が多く残してしまったが、なかなかの美味であり、お腹が健康であることの重要性が身にしみた。夕食の帰りに宿の隣の売店で水を購入するがなんと英語が通じ、大変ありがたかった。それほどまでにこのメキシコという地は英語の通用度が低い。その分濃い旅行が楽しめるのは事実であるが。笑。

本日のレストラン、La peñaは雰囲気のいいレストランで、味も良い

本日はこれにて就寝。宿はあまりシャワーのお湯の出が良くなく、まあ仕方ないかなという感じではあった(次の日はちゃんとお湯が出た。この日シャワーを浴びた時間が遅かったからである可能性もある)。夜も鳥のさえずりとイモリの鳴き声が聞こえ、ああいい意味で田舎に来たなあ、という雰囲気であった。

夕刻と夜の風景。大変良い雰囲気だった