Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

モロッコ(4) 苦しみの砂漠

2023/3/14

10:30 アイト・ベン・ハッドゥ

ワルザザート

ダデス渓谷

トドラ渓谷

18:00 エルフードにて4WDに乗り換え

19:00 Yasmine Hotel泊(テントにて)

 

早朝3時ごろに、妙に調子が悪くて目が覚める。胃の調子がおかしい。消化管の動きが止まっており、これは明らかに食あたり、感染性腸炎の症状であると直感した。何度かトイレに駆け込む。あまり綺麗な話題ではなく申し訳ないが記録のために書いておくと明らかに水様便であり、水様なので止まる気配がない。水分を喪失して寒気がしてきた。

朝食の時間になってもさすがに食欲はほとんどなかったものの、何も食べないのも元気にならないと思いパンとオレンジジュースを摂取した。しかし後から振り返ると、これが最悪の経験の決定打となってしまったように思われる。…

体調は明らかに悪いが、朝の陽ざしに染まるアイト・ベン・ハッドゥは美しく、出発まで時間があるので散歩に行くことにした。足が重い。しかしやはり太陽の光が当たると景色に陰影が生まれ、立体感がきれいに表現される。

部屋に戻って荷物をまとめ、チェックアウト。

ドライバーと待ち合わせの駐車場に行くのにやはりスーツケースだと厳しいので、ロバのポーターを呼ぶことにした。20分くらい待たされたのちに、ポーターが来た。よろよろとどこか侘しげなロバと使いのおじいさんについていき、駐車場に到着。待ち合わせ時間に少し遅れてしまった。20DHをチップとして渡した。橋を振り返ると、アイト・ベン・ハッドゥが野性味あふれる表情を見せている。昨日ここに向かう時はロバに気を取られ、ここからのアイト・ベン・ハッドゥの姿はほとんど目に入っていなかったのだった。

さて、さっそく車に乗り込んで出発するが、車の揺れが調子の悪い胃腸にさらなるダメージを与え、口によからぬものがこみ上げてきた。終了。…相方がとっさにビニール袋を取り出してくれて本当に事なきを得たが、小学生以来の屈辱である。思えば昔は乗り物酔いなんてまずすることはなかったが、最近は少し三半規管が弱くなった気がする。このあとトイレ休憩や食事スポットなどで休憩を挟むごとに手洗場に駆け込むことになり、もはや体のうち内胚葉で囲まれた部分にはわずかな水分しか残っていない状態になりぐったりしていた。おかげで全くドライブを楽しんだり、車窓を楽しんだりする余裕がなかった。もっとも赤茶けた砂漠に集落とオアシスが点在する景色は最初こそ新鮮ではあったものの、特にドラマティックな歴史の舞台となったような地域ではないので健康な状態でこの日に臨んだとしても飽きるのは早かったと思う。フォトストップで撮影した写真をいくらか載せておく。

バラのモニュメントがかわいらしいダデスの町を通り過ぎる。昼食は雰囲気がよく静かなレストランで、おいしそうなタジンが出されたが、残念なことに全く食べられなかった。オレンジジュースを飲むと、久しぶりにまともに摂取した糖分とミネラルに生き返る思いがした。まさに命の水である。
レストランをあとにし、トドラ渓谷へ。

トドラ渓谷は砂漠から山脈側へ少し入ったところにある。標高を上げて谷間に入っていく景色が雄大だ。次第に峡谷が狭くなってきて、渓谷入り口に至る。

トドラ渓谷は巨大な岩を穿った峻険な地形が印象的だが、観光バスがひっきりなしに出入りしており、人気スポットであることがわかる。川には時折ゴミが落ちているし、対岸は(落石で破壊され、放棄されてしまったという)レストランが何件かあり、手つかずの自然が楽しめるといったスポットではないものの、これはこれで悪くはない。しかしながら度重なる水分の喪失できわめて体調が悪く、写真撮影に精を出すことができず段差に腰かけてぐったりしていた。

トドラ渓谷を出ると、あとはひたすら移動である。時折カナートが掘られた単調な砂漠の道を行き、エルフードで待っていた4WDの車に乗り換える。こちらのドライバーは民族衣装のようなものを着ており、幾分素朴な感じだ。車には日本の盆踊りのような不思議な音楽がかかっていた。このドライバーの説明によると、このあたりで化石がとれるのだという。途中で舗装路を飛び出し、オフロードへ。どういうわけかまばらに木が生えていて不思議な光景。30分ほど何もない砂漠を走っていくと目の前に赤い砂からなる砂の丘が現れる。

ほどなくして本日の宿へ。ホテルと砂漠近傍のテントどちらかを選ぶことができるが、相方の希望によりテントを選ぶことにした。以前は砂漠のど真ん中にテントが張られていたようだが、近年モロッコ政府により砂漠内での幕営が禁止されたそうで、砂丘の横にテントが並んでいる。

左:お世話になった4WD車 右:砂漠のほとりに並ぶテント

ホテルのフロントで相方の楽しみにしていたラクダ乗りについて話すと、ラクダ乗りは別料金だという。しかも事前の説明とは違い、もう時間が遅いから夕方のラクダ乗りはないのだとフロントのキツネのようなおっさんは言い張る。そんな話は聞いていないが、とりあえず言われるままに200DHx2を払う。しかし違和感がぬぐえなかったので、先日電話をかけてきた現地連絡先の女性に事情を話すと、「遅い時間の到着だと夕方のラクダ乗りはできないことがあります、我々のツアーはラクダ乗りの料金を含んでいるはずですがすぐに手配担当に確認します」と言っていったん電話を切り、再度電話をかけてきた。やはりフロントのキツネ男が勘違いをし、二重に金を徴収していたのだという。すでにホテル側には話をつけたから必ずrefundを受けてくださいとのことであった。まったくふざけた男だ。人間ある程度の年齢になるとその人の生きざま・性格が明瞭に顔に現れ、それはもはや元来の顔のつくりを覆い隠してしまうほどだと個人的に思っている。今まで海外旅行でキツネ様顔貌の男には何人か出会ったことがあるが、性格がよかったためしがない。人相学というか、やはり人は見た目が9割というのはあながち詭弁でもないように思われる。先ほどはクレジットカードで支払ったのでクレジットカードの支払い取り消しをお願いしたがそれはできないと言い張り、現金400DHを返してきたので我々は怒り心頭であった。これについても現地連絡先に問い合わせると、どうやらモロッコのクレジットカード端末では地方を主体として、支払い取り消しができないものがあるらしいとのことだった。

夕食はテント横に作られた食堂で頂くことができるようだが、本日はもう絶食と水分補給するしかないので、相方のみが夕食を食べに行っていた。まあまあな味のタジンだったそうである。頼めばキャンプファイヤーなどもやってくれるそうだが、到底それを楽しめるような体調ではなかった。相方には迷惑ばかりかけてしまって申し訳なかった。近くにある別のテント村からはキャンプファイヤーで奏でられるエスニックな音楽が聞こえてきた。

 

夜更けて少し外に出ると、星が美しく輝いていた。やはり砂漠だけに気温はぐっと下がり、少し肌寒い。オリオン座や北斗七星、カシオペア座など冬の星座が美しく見える。東京ではもはや星などほとんどみえないので、昔ほど登山に高頻度に行かなくなってしまった今、こんなに星空を身近に感じるのは久しぶりだったかもしれない。明日は胃腸の調子が回復することを祈り、寝ることにした。