Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

モロッコ(6) メクネス近郊とフェズ

2023/3/16

メクネス市街観光

10:00 ムーレイ・イスマイル廟

13:00 ムーレイ・イドリス、ウォルビリス遺跡

14:30 ウォルビリス遺跡出発

16:00 フェズ

Riad Norma泊

 

朝起きるとまだ薄暗いが、昨日行ってみたテラスへ上がってみる。

ナツメヤシブーゲンビリアの植えられたテラスからは美しい朝焼け。近くに見える大きなミナレットからアザーンの声が聞こえる。テラスに向かう途中で猫がついてきて、テラスに放置された状態でドアを閉めて帰ってきてしまったが大丈夫だっただろうか。屋上からは、市街の建築物は隣の家と壁が完全に接しており、別の所有者の家との間に隙間が全くないことがわかる。どうでもいいことではあるが、こういうところにも文化の違いが表れているのが面白い。

鳥の鳴き声が聞こえる朝のリヤドはとてもシックで、小さいながらもぜいたくな空間である。朝7時半から朝食。パンケーキと命の水、オレンジジュースがとてもおいしい。

自由時間は朝10時までとかなり短いが、市街地を散歩してみることにした。

マンスール門が修復工事中ということは事前に旅行会社から聞いていたが、キリスト教徒の地下牢やブー・イナニヤ・マドラサなどの観光名所がすべて修復中で閉館していたのは面食らった。だからメクネスを滞在先に入れたとき旅行会社がメクネスの滞在時間をこれほど短く設定していたのか。今更納得した。これならフェズ3泊でもよかったかもしれない、と思った。

メクネス市街はこぢんまりとしており、あまりワサワサした感じはないもののこれは朝早いからで、午後になると素行の良くない連中が彼らの巣穴から出てくるのかもしれない。

マンスール門もキリスト教徒の地下牢も修復中

9時半ごろにはリヤドに戻り荷物をまとめ、ポーターを待つ。本日もKamal氏の運転であるが、彼は今日が最後の日である。相変わらずのイケイケ感。

まずは少し行ったところのムーレイ・イスマイル廟へ。こちらはメクネス観光の目玉であり、2023年初頭に修復が完了している。多くの見どころが一斉に修復に入ってしまった中で唯一の救い。ムーレイ・イスマイルとは、アラウィー朝のかつての君主であり、メクネスを壮大な王都にすることを夢見て建築事業に励んだが、残念ながらその完成を待たぬままこの世を去った。さらに残念なことに首都はほどなくしてフェズに移ってしまったため、この町は衰退を余儀なくされた。町の規模もマラケシュに比較するとだいぶ小ぶりではあるが、少し落ち着いた雰囲気があって、人々も(これは今だから書けることではあるが)フェズやメクネスと比較すると穏やかであるように思われる。

 

廟は修復完了直後といった趣で新品感がある。逆に言えばフェズのように歴史的建造物に歴史が宿っている雰囲気はあまりない。廟はそれほど壮大ではないがディテールは相変わらず凝っており、白を基調として青緑や褐色、黒のタイルが多用され、明るい雰囲気である。朝なので観光客も少なく、ゆっくりと楽しめた。

廟の奥にはムーレイ・イスマイルの墓石が安置された部屋とその前室がある。

こちらはアルハンブラ宮殿のような意匠であり、モロッコのモスクや廟の建築がアルアンダルス・イスラーム建築の系譜上にあることが一目瞭然である。

ムーレイ・イスマイル廟は30分ほどで観光を終了し、駐車場に戻る。次はムーレイ・イドリスの程近くにある古代ローマの遺跡、ウォルビリス遺跡でに向かう。オリーブなどの畑が広がり、とても美しい。

古代ローマの遺跡はマグリブ地域やシリア、イベリア半島など地中海沿岸に点在しており、その文化が世界に与えた影響は計り知れないものがある。周囲は美しい緑に囲まれており、精巧なモザイクが有名。チケット代は旅行代金に含まれており、Kamal氏にチケットを渡された後自由行動となった。

途中で遺跡の係員と思しき青年に写真をとってもらうようお願いしたところいろいろと案内され、それ自体はありがたかったのだけれどもどんどん先に進んでしまい、あまり自分の思い通りに写真が撮れなかった。そしてやはり最後にチップを要求された。こういうのは本当に親切というのだろうか。私にはよくわからない。まあ、相方は写真をたくさんとってもらったことに喜んでおり、嬉しそうにチップを払っていたから、まあいいか。

ほどなくして車に戻り、ムーレイ・イドリスの写真スポットへ。

ムーレイ・イドリスというのは当然都市の名前なのだが、この名前はこの地域のイスラーム定着に尽力した君主、ムーレイ・イドリスの名にちなむ。ここは彼の霊廟を中心として発達した町である。市街を観光する時間はなかったが、フタコブラクダのような丘を埋め尽くすように白い家々が立ち並ぶさまは圧巻である。

ムーレイ・イドリスの市街地の中をゆっくり通り抜け、高速道路に乗ってフェズに向かう。1時間ほどでフェズに到着する。本日はKamal氏がドライバーを務める最後の日。厚くお礼申し上げ、別れを告げる。Riad Normaは門の近くにあるため、ポーターではなくリヤドのスタッフが迎えに来てくれた。リヤドは広いパティオを有し、あらゆるディテールが凝っている。そして手入れされたガーデンにはレモンやジャスミン、バラなどが植えられている。すべてが圧巻の美しさである。

帳簿にサインし、少しお茶をのんだのちに部屋に案内される。部屋の美しさにも期待が高まる。

廊下ももちろん美しい。部屋はとても広く、何より天井が高い。そして圧倒的な清潔感。これが1泊1万数千円とは驚きのクオリティである。ガイドブックには「オレンジやレモンの木、そしてバラが咲き誇る美しいガーデンをもつ。アラブ・アンダルシア様式を撮り入れたリヤド内は、客室、中庭ともにフォトジェニックな空間が広がる」と書いてあったが、ここまでとは…最後の宿泊となるフェズでは疲れがたまっていることが容易に予想されたのでスパやハマム、プールなどの贅沢がない範囲で美しく手入れされたリヤドを選んだが、これは正解中の正解であった。ネット上の予約サイトでも日本人の口コミはほとんどなく、穴場と言っていいだろう。

余りの美しさに呆気にとられ、写真をバシャバシャ撮ったのち、少し休んで市街を歩いてみることにする。少なくともリヤドの周辺は人も少なく落ち着いた雰囲気に思われた。

いざ市街の中心部に繰り出すと、人でごった返している。マラケシュと比較してもわかりにくく入り組んだ迷路のような町で、ポイントとなる交差点にはたいてい自称道案内の青年がスタンバイしている。しかもマラケシュの人と違ってやたらとうっとうしく話しかけてきて、無視していると「Monkey!」だのなんだの言う始末。何のために我々に話しかけているのか分かったものではない。我々がアジア人だから馬鹿にされているのかと思いきや、ヨーロッパ人だろうがなりふり構わずこの調子のようである。全くあきれたものだ。これもある意味エンターテイメントと言えなくもないが、よほど感覚の鈍麻した人間でもない限り不快感を覚えるだろう。道を尋ねるだけで金をせびってくるような人が大勢いる国を、旅行客が感じがいいと思うはずがない。ひたすらグーグルマップにかじりつき、なるべく道を外さないように試みたが、一部路地が狭いところや暗いところもありヒヤヒヤした。

町並み自体は美しいはずだが、あまり町並みを楽しむことに心から集中できない、モロッコでは全体的に言えることではあるがとくにここフェズではそれが顕著である。

夕食は散歩道の途上にあった「The Ruined Garden」へ。これはリヤドの人もおすすめだそうだ。感じの悪い自称道案内人が大量発生しているここフェズのオアシスのようなところ。美しい庭で感じよく料理を食べることができる。命の水オレンジジュースとタジンを注文。干しアンズやプルーンが乗っていたのが3日前の下痢を思い出して嫌な感じがしたが、結論を言えばこれで下痢をすることはなかった。値段は覚えていないのだが、大体合計200DH程度だったと記憶している。ガイドブックではクレジットカードが使えると書いてあるが、実際は使えないので注意が必要。

感じの良いレストラン、The Ruined Garden

心地よい空間。ごちそうさまでした。

リヤドに帰る道では道端で犬と共にサッカーをしている少年たちが。

リヤドに戻ってくると、庭やパティオが美しくライトアップされていた。パティオに面した部屋では暖炉に薪がくべられており、あたたかな雰囲気を醸し出していた。

シャワーは十分な水圧で、お湯の出も申し分ない。

旅の終盤ほど疲労が蓄積してくるので、ストレスがないことは大変ありがたいことである。

明日はいよいよマドラサやタンネリ、そしてマリーン朝の墓地など、本格的なフェズ観光である。