Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

ウズベキスタン(1) 青・白・緑

2019/10/30

12:30 成田 OZ101便

15:10 仁川空港 

17:10 OZ573便

20:20 タシケント

Hyatt Regency Tashkent泊

 

出発の日である。本日はアシアナ航空にてまずはソウルに向かい、そこでタシケント 行きの飛行機に乗り継ぐ。本来は直接ウルゲンチに向かいたいところだが、ウズベキスタンの国内線は国際線との接続が極めて悪いため、タシケントでそのまま投宿する日程になってしまった。ウズベキスタンは歴史的経緯により日本より韓国とのつながりが深いそうで、大韓航空アシアナ航空といった韓国の航空会社が隔日でタシケントへの直行便を出している。

 

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左:成田空港第一ターミナル 右:これを見るといつもワクワクする

さて、一人の海外旅行というのは思った以上に心細い。成田空港第一ターミナルに来るのは初めてだし、そもそも国際線に一人で乗るなどという体験は初めてだ。Iphoneのウォレットに国際便のチケットが入っているはずなのだが、どうも落ち着かずに自動発券機の近くにいる案内員にこのチケットだけで問題ないのかを訊いてしまう。手荷物はちゃんと預けられるか。預けた手荷物はちゃんと目的地で回収できるか。そういう細かいことを考えてしまう。複数人数であれば他人に荷物を見てもらいながらトイレやお店などに行くことができるが、それはすべて自分一人で管理しなければならない。日本国内ならばまだしも、基本的に治安が日本ほどよくない※(とされている)海外ではスリの危険もあるので気が気でない。しかしまあ、自分でそれを選択したのだから慣れるしかない。

アシアナ航空の飛行機に乗り込む。飛行機の窓からはアシアナ航空の象徴である黄色と紺色、臙脂色の模様がよく見える。飛行機お決まりの景色ではあるが、青空と雲が美しい。何度見ても飽きない景色である。我々の暮らす雲の下では雨が降ったり嵐が吹き荒れたりしても、雲の上は必ず晴れている…そう考えればもう少し人生踏ん張れるという感じがしてよく空を見上げるのがお決まりである。まあ韓国は日本と距離的に隔たりもないので、ほどなくソウルの仁川空港に到着した。

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左:雲が美しい 右:仁川空港周辺の風景

 ソウルの空港ではなんと日本語の案内も流れており、異国感は薄い。しかしタシケント行き飛行機の搭乗口付近の待合室には中央アジアの人々と思われる、コーカソイドモンゴロイドが入り混じった風貌の人々が多くみられる。こういう異国感のあふれる光景は何回見てもニヤニヤしてしまう。搭乗の待機列に並んでいると、青年がいて、電話で流暢な日本語を話している。少し話しかけてみることにした。

「日本語話されるんですね、どちらからいらっしゃったのですか」

「私はウズベキスタンから来ました、日本に留学していたのですが、これからウズベキスタンに帰るんです」

「そうでしたか、日本語がお上手ですね」

「日本で学びました」彼は照れくさそうに笑った。

「日本はどういう国という印象でしたか?」まあこれもお決まりの質問である。

「日本人は皆急いでいるという印象ですねえ」

私もそう思う。イランの記事のエピローグでも触れたが、日本人は常に何かに追われているような表情をして街を歩いている人が多い。何をそんなに急がなければいけないのか。社会の進歩のため?昇進のため?お金のため?本当に大事なものを自分の頭で考えず、社会の命令に従っているだけでは永遠に人として二流のままである。

ウズベキスタンでおすすめの食べ物は?」

シャシリクですね。おいしいですよ」

「ありがとう、またいつかお会いしましょう」

一人旅行の醍醐味は、「他人と話すこと」である。二人くらいまでならぎりぎりなんとかなるが、グループが3人以上になると、たいていの場合現地の人と対話するという楽しみはほぼ消滅する。大学生ぐらいまでは他人との対話を避けて自分の世界という殻にこもっていた気がするけれども、自分との対話はもう一生分やったという自負だけはある。だからこれからはより多くの人と接することで自分の内面を変革していきたいと思っている。もっとも、「話しかける人」自体に選択圧がかかっているので、これはそれなりに恣意的なものであるといわざるを得ないが。この青年はおそらくビザで日本に来ていたがビザが切れてしまったのだろう。日本にいる短期間のうちにこれだけの日本語を話せるようになるのだ、彼は間違いなく優秀なはずである。思うに人の能力というのは本人の才能ではなく環境でほとんどが決まってしまう節がある。有能でありながら社会の辺縁に生まれ、決して日の目を見ることなく一生を終える人がいる一方で、良い家柄に生まれたというだけで社会の中枢までいとも簡単に上り詰める人間もいる。世界というのは本当に無慈悲で残酷なものである。せめてこの青年に良い運命が待ち受けていることを祈りたい。

アシアナ航空タシケント便は、やや機体が古く、シートもモケットが分厚い旧型のものであるため、その分シートピッチが圧迫されてあまり快適とは言えない。まあそれも一興かもしれない。それでは早速この青空に音楽を響き渡らせることにしよう。ゆっくりと移りゆく眼下の景色を見ながら音楽を聴くのは最高のひとときである。

عسى الله يأخذ أحبابها

次第に日が暮れていくのが見える。ウイグルの上空あたりを飛んでいると暗闇の大地にはまるで星のように町のあかりが瞬いている。あの美しい街の明かりのもとで何が行われているかを想像すると、街灯のまたたきすら人々の叫びのように見えてくる。天山山脈を越えるとタシケントはすぐである。美しく輝く夜景が見えてすばらしい。

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タシケントはもうすぐ

タシケントの空港に到着すると、なんだかがらんとした空港で人口密度が低い。日本から来たと思われる人々が散見されるが、女子旅率が高い。別にいいんだけど、海外でコーカソイド風の男性にホイホイ尻尾を振り、日本の女性は尻軽であるという印象を抱かせるような真似だけは本当に慎んだほうがいいと思う(地球の歩き方にも同じようなことが書いてある)。日本人女性特有の雰囲気は欧米人男性の心をくすぐるのかもしれないが、欧米から来た海外旅行客がけっこうピシッとした格好をしている一方で彼らがリゾート気分のような服装をしているのを見ると、これはさすがに犯罪にあっても仕方がないんじゃないかと思わされる時もある。それでもまあ、楽しみを共有できる友人と旅行に行けたら、きっと素晴らしい思い出になるんだろうな。羨ましくもある。

 

砂漠の国で緯度も40度台であるから、夜はそれなりの寒さを覚悟していたのだけども、そこまででもなくて拍子抜けする。入国審査ゲートを出るとなんと空港の職員が、空港を出たところでドライバーが待っているといっていろいろ案内してくれた。両替所でやる気のなさそうな女性職員に両替をお願いし、別の窓口でSIMカード(Ucell)を購入する。なおウズベキスタンのモバイル事情であるが、ネット上に詳しい情報が載っているとは思うが、国土のカバー率的に圧倒的にUcellがおすすめらしい。値段は失念してしまったが、常識の範囲内と記憶している。ネット上では携帯の設定を職員にしてもらう必要があると書いてあったものの、購入したSIMカードを携帯に挿入するだけですぐに起動できた。

タシケントの空港は一国の首都が擁する空港としてはかなり小さい。空港出口では客の到着を待つ観光ガイドであふれている。私もご多分に漏れずその一人である。人のよさそうなガイドの車に乗り込み、本日の宿へ向かう。空港から市街地へ向かう道路は青、白、そして緑というウズベキスタンの国旗の色でライトアップされている。市街地の電飾もこの3色が目立つ。このガイド曰く

Hyatt Regency Tashkentか。あたらしくていいホテルだね」

タシケントはとても治安がいい、夜に散歩するのも面白いと思うよ」

確かに夜の町を歩く人はまばらだが、柄の悪そうな人がたむろしている様子は見受けられない。そしてこう付け加えた。

ウズベキスタンはとてもいい国だ、きっとあなたの気に入ると思うよ」

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左:タシケント空港 右:青・白・緑の3色に輝く街灯

ホテルに到着してチェックイン。確かに新しくて美しいホテルである。

過去の経験から、ホテルの質は旅行の質を決定するのはほぼ間違いないと思っており、今回の旅行で滞在するホテルはすべて自分で選んだ。1日のうち半分程度の時間はホテルで過ごすのだから、当たり前といえば当たり前なのだけど、案外見逃されがちな事実な気がする。異国の地に来て本来くつろぐべき場所で無駄な緊張を強いられ、次の日に無駄な疲れを残すのは本当に意味のないことだと思う。

どういうわけかスイートルームが予約されており、一人でがらんとした広い部屋を行ったり来たりして、調度品やシャワールームの美しさににやにやしながら時を過ごした(高級ホテルの滞在に慣れている人から見れば大したことはないのかもしれない、貧乏人の嗜みということで生暖かい目で見守っていただければ幸いです)。テレビをつけると映るチャネルはロシア系もしくはアラブ系メディアが多い。ここはれっきとしたイスラム圏であることを認識させられた。

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左:ホテルのロビー 右:部屋は広くて快適

次の日は朝早くからヒヴァに移動する日程なので、早めに寝ることにする。