Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

モロッコ(5) メクネスへ

2023/3/15

6:30 サハラ砂漠ラクダ乗り

8:30 メルズーガ

エルフードにて通常の車に乗り換え

14:00 ミデルト 昼食

イフレーン

メクネス

18:30 Riad El Ma泊

 

 朝起きると昨日よりはだいぶおなかの調子も良くなっていたが、絶食の影響でかなりの空腹である。外はまだ暗く肌寒い。ふと西の方角を見ると流れ星がきれいに見えた。

 6時半にテントの近くの指定された場所へ向かう。まだあたりは真っ暗であるが、ラクダ引きのおじさんが2頭のラクダを連れてやってきた。一頭は黒っぽく、一頭は白っぽい。さすがに栄養不足で足が重い。白いほうのラクダをあてがわれ、またがるとラクダは急激に立ち上がった。砂丘の方に歩きはじめる。ラクダは歩き方にクセがあるため、乗っているとかなり揺れる。相方は大きな揺れに悲鳴を上げていたが、次第にその歩き方にも慣れてきた。砂丘を途中まで登ったところで休憩。ここで日の出を待つことになる。ラクダ引きのおじさんは日の出まで"Goodbye!"と言って横になり、寝っ転がっていた。

20分ほど待っただろうか。しだいに東の方がオレンジ色に染まり、はるか向こうにある山並みから太陽がのぞく。砂漠は美しいオレンジ色に染まった。

ラクダ引きのおじさんはたくさんの写真を撮ってくれたが、確認するとどれも大変よく撮れておりセンスを感じた。別の方向からは別のホテルに泊まっていたと思われるインド人家族がラクダに乗ってやってきた。

再びラクダに乗りホテルに戻る頃には斜めから差す日の光でラクダの長い影が砂漠に投影されて、大変印象的だった。

乗っている時間自体はそれほど長くなかったが、なかなかに面白い体験であった。相方はラクダに乗ったことに大変感動していた。私一人でモロッコを旅行するならばラクダに乗るという計画は決して立てなかっただろうから、喜んでもらえたなら計画を立てた甲斐があったというもの。最後にラクダ引きのおじさんに100DHほどチップを払い、ホテルに戻る。ちょうどテントに戻ったころにはテント近くにたくさんのラクダが行列をなしていた。これからいったいどこに行くのだろうか?

ラクダ引きのおじさん(青年)

今日は朝食が食べられそうだ。テントの近くにある食堂で摂った朝食とオレンジジュースが美味しく、食べられることのありがたみが身に沁みた。

8時半にホテル前に昨日4WDで送ってくれたおじさん(というか青年だろうけど)が迎えにくることになっているので、チェックアウト。昨日のキツネおじさんと別れの挨拶である。明るいところで見るとなかなか凝った装飾のホテルである。入口では中国人と思われる団体旅行客がガヤガヤ話していた。

4WDの車に揺られ、しばらくして例のヤ●ザのような風貌のKamal氏と合流。4WDの人はチップをもらうのが当然という態度では全くなく、好感が持てた。

さて、本日もまた長旅である。砂漠地帯を去り、アトラス山脈の畝を何回もこえ、モロッコ有数の緑豊かな農業地帯、メクネスに向かう。滞在時間に占める移動時間があまりに長いので少しせわしないのが残念である。

エルフードを出てエルラシディアまでは、砂漠の光景。

軍の施設があるというエルラシディアを過ぎると、次第に景色が山がちになってくる。ダム湖のほとりの雄大な道を行く。岩がゴツゴツした谷間の道をこえると、少しだけ山に木が生える光景が目に入り始めた。フォトストップやトイレ休憩を挟みつつ、山脈と平原の繰り返しの道を走っていく。

山脈を一つこえるごとに周囲の緑が多くなってくることが手に取るようにわかり、非常に興味深い。不毛なには国の標語である「(神、祖国、国王)الله وطن ملك」や「(栄光あるアラウィー王家に不滅と栄光を(なんで栄光が2回出てくるんだ。笑。))المجد والخلود للعرش العلوي المجيد」が白字で大きく書かれているのが見える。一応立憲君主制となってはいるものの国王の権限が非常に強いモロッコの現状を端的に反映するようなスローガンである。標高2000m以上の峠をこえ、雄大な景色の広がるワインディングロードを大きく下ってしばらく走るとミデルトの市街に出る。

ミデルトは特に見るべきものはないようだが、雪を頂いた山脈が屏風を立てたように連なっているのが市街からよく見える。山脈からの豊富な水を生かしたリンゴの産地であるらしい。ドライバーのKamal氏が近くの売店で売っているリンゴを1つずつ買ってきてくれた。ここのリンゴはヨーロッパと同じで、そのままかじって食べる。おじさんは自分用にかったリンゴをかじっていたが、せっかくなので本日の夜食に残しておくことにした。

市場でリンゴを買うドライバーのKamal氏

ミデルトでは昼食休憩。近郊にツアーでよく利用される規模の大きいレストランがある。本日は昼食代がツアーに含まれてないようなので昼食は自費である。ミデルトの名産はマスだそうなので、迷いなくマスのグリルとオレンジジュースを頼んだ。オレンジジュース、ああわが命の水。客がたくさん入っており随分料理が出てくるまで時間がかかったものの、出てきた料理は久しぶりに魚がおいしく感じられた。

マスのグリルは大変おいしかった

ミデルトをこえると再び山脈越えだが、しだいに緑が増えてきて肥沃な雰囲気となってきた。途中で道が渋滞し始めた。どうやら戦車を運ぶ軍隊のトラックが坂を上る速度が遅く、渋滞が起きているらしい。写真を撮影しようとしたところKamal氏にとがめられた。このあたりはほぼ森林となっている。開けた窪地では遊牧民がテントを張って生活する様子が見られた。

木々におおわれた山並み

しばらく坂を登っていくと、高原状となったところには雄大な池があり、澄んだ景色は今まで見てきた砂漠の荒々しい景色とはかなり違ったものである。近くでは遊牧民が白黒の羊を放牧していて、まるでアルプスのような牧歌的な光景である。

再び下りに転じる。植物が増えてきて、もはや緑色の大地である。朝出発した砂漠が嘘のようだ。このあたりの森林を構成する植物はアトラスシダーといって、いわゆるアロマオイル「シダーウッド・アトラス」の原料でもある。地図を見るとこのあたりにはモロッコでは珍しい単性火山群が分布しているようだが、車窓から見ている分には単なる丘と全く区別がつかなかった。今までの景色が嘘のような森林の中の道を通ってしばらく行くと、「モロッコのスイス」と呼ばれるイフレーンに至る。

単性火山と思われる丘。周囲は緑におおわれている

アトラスシダーの森が広がるイフレーン周辺

イフレーンは標高1600mの高原にあり、モロッコサッカーチームがシーズンオフに練習する場所として有名であるらしい。ここでトイレ休憩&しばし散歩タイムとなった。トイレはKamal氏の案内でレストランの地下を貸してもらう。彼がトイレを案内するとき、トイレ前の金銭徴収人がまるでハチクマにやられたスズメバチのように金を払うことを要求しなくなるのが本当に面白い。まあ、旅行客としては小銭を消費しないので助かる。

ヨーロッパ風の町並みが広がるイフレーン

確かにいかにも別荘地といった趣でヨーロッパ風の町並みだが、スイスと比べるにはさすがにおこがましい感もある。行ったことはないが町並みの美しさで有名なベルンなどに比べると(行ったことはないので写真だけだが)首をかしげてしまう。ここは元来ヨーロッパ人の別荘地として発達した関係で、このようになっているそうだ。Kamal氏には「ヨーロッパのスイスと呼ばれる町並みはいかがでしたか?」と聞かれたが、「スイスに行ったのが小さい頃だったので、あまり覚えてません」などとお茶を濁しておいた。

イフレーンを出ると、車は高原状の台地をゆっくりと下っていく。あたりは背の低い木々が生い茂り、まさに高山帯といった趣だ。しばらく下るとおそらく杏と思われる桜のような花をつけた木々や、オリーブの畑が増えてくる。ハジェブの市街を通り抜けると段丘のような坂を一気に駆け下り、緑豊かな道をしばらく走るとメクネス市街に至る。

緑豊かなメクネス近郊

次第に交通量が増えてきて、長いドライブにイライラしていたのかKamal氏は「Qa7bat!」(直訳すれば娼婦だが、英語のF〇ck程度の意味だろう)と連発していた。風の道と呼ばれる道を進むと駐車場に至り、ここでポーターに荷物を引き渡された。明日もここに集合である。本日のリヤド、Riad El Maに向かう。

「風の道」を通って市街へ向かう

このリヤドは地球の歩き方には載っていなかったものの、オンライン予約サイトでそれなりに好評で内装も自分好みだったので予約したもの。市街をしばらく歩くとリヤドに至り、おばさんが出迎えてくれた。お話し好きで明るい雰囲気のおばさんである。英語はあまり話せないようなのでフランス語でコミュニケーションをとる。しばらくフランス語を話していなかったので忘れているかと思ったが、話してみると案外何とかなるものである。それでも熱心に勉強していたころと比較するとかなり語彙は抜けている感じがぬぐえない。DELFやDALFをめざしてもう一度ちゃんと勉強せねばな。

リヤドは比較的小ぢんまりした雰囲気だが、ディテールが凝っており調度品もかわいらしい。我々の滞在した部屋はグレーを基調としたおしゃれな雰囲気でまとめられていた。バスルームもちゃんとしたドアがついており快適そのもの。水道の水もアイト・ベン・ハッドゥのような怪しげな感じがまったくなく、都会に来たことを実感する。屋上に上がってみるとちょうど夕暮れ時で、ブーゲンビリアナツメヤシなどの手入れが行き届いており、とてもいい雰囲気だった。

部屋はグレーでまとめられ、お洒落な雰囲気

二人とも疲れており、夕食に行く気が起きなかったので持ってきた保存食でやり過ごすことにした。Kamal氏の買ってくれたリンゴは日本のそれとは風味が違うものの、なかなかの美味であった。夜にリヤドのパティオに出てみると、美しくライトアップされてよい雰囲気を醸し出していた。