Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

イラン旅行(8)2016.2.26 ゴレスターン宮殿 ―テヘランからタブリーズへ―

2016.2.26

→→→8:00頃 テヘラン駅着

テヘラン観光

13:00 テヘラン空港

14:10 ATA航空5248便 

15:10 タブリーズ空港

インターナショナルホテル泊

 

本日もまた日程が慌ただしく、寝台特急テヘランに到着し、午前中はテヘラン観光。といっても、それほど滞在時間が長いわけではないので、ガージャール朝時代の宮殿、ゴレスターン宮殿を主に観光する。午後はATA航空でタブリーズに向かい、タブリーズに宿泊するという日程である。イランでは公共交通機関の本数が決して多くないため、どうしても隙間の時間が生まれてしまうのが残念なところ。

起床すると外は既に明るく、窓の外にはひたすら岩石砂漠が広がっている。車掌がやってきて、軽食とお茶を運んできた。同室のおばあさんが列車の振動からか床の絨毯にお茶をこぼしてしまう。そこで初めて、この国では寝台特急の床にすら織は粗いものの絨毯が敷いてあるということにも気が付いた。なんという絨毯文化だろう。

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左:朝の列車の様子 右:ひたすら岩石砂漠の鉄路を行く。ヨーロッパではまずお目にかかれない光景だ

しばらく経つと次第に緑が多くなり、市街地が迫ってきたと思ったらテヘラン駅に到着した。テヘラン駅はテヘラン中心市街の南端にあり、寝台特急から降車した客で賑わっている。

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左:駅構内には到着した寝台特急が 右:テヘラン

駅前には例によって客引きのタクシーがいて、英語で話しかけて来るものもいるが、英語で話しかけてくるやつは大体怪しいので無視して、BRTを使うことにする。BRTは比較的新しいらしく、近くのオフィスで専用のICカードを購入する。二人で1枚を使うということも可能らしいので、ICカードは1枚のみの購入にしてゴレスターン宮殿に向かう。BRTの中は比較的清潔で、ヨーロッパのように頼んだわけでもないのに音楽を演奏して金を要求してくる変な人もおらず快適だ。というか、何回も同じようなことを書いて申し訳ないが、ヨーロッパは非常にクリーンで洗練されたイメージが漂っているけれども、富が偏在しているので貧しい人は貧しく、都市の治安は正直あまり良くない。イランの諸都市のほうがよほど治安がいいはずだ。ヨーロッパというだけでオシャレに感じたり、アメリカというだけで先進的だと思ったり、中東というだけで危険だという先入観を持ったりするのは非常に短絡的な考え方のように思われる。

 

BRTでMoniriye square駅に到着。ここからよく整備された綺麗な歩道をしばし歩くと、そこがゴレスターン宮殿である。

ゴレスターン宮殿は多くの建築物の集合体である。それぞれの建物ごとに料金が設定されており、全ての建物に入ろうとすると80万リヤル程度と、なかなかの値段がする。しかしながら結論から言うと、どの建物も中に入る価値があるので、これは高くても払っておいた方がいい。エチオピアにおけるラリべラの岩窟教会の入場料が異常に高いのと同じような位置付けだろう。

高価なチケットを購入し構内に入ると、細長い長方形に伸びるペルシャ様式の池正面の正面には、鏡張りの間に大理石の玉座が安置されているのが見える。その奥では近代的なビルが美しい景観を破壊しているが、玉座に近づくにつれ見えなくなる。

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ビルが景観を破壊するゴレスターン宮殿。まあ都会の歴史的建造物ははどこの国もそういう運命にある。いや逆に均整がとれすぎて違和感がないかも。

この大理石の玉座はきわめて精巧な彫刻がなされており、「ペルシア芸術の最高峰に位置づけられる」そうである。非常に印象的だ。ガージャール朝時代は内憂外患に悩まされ領土を蚕食されたぱっとしない時代であったというが、こんなものを作るカネはいったいどこから出てきたのか、疑問は尽きない。

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大理石の玉座。精巧に彫刻されている

庭園はそれなりに美しく管理されているが、落葉樹が木の枝だけになってしまっているのでどこか殺風景な感じだ。それもそう、テヘランは北緯35度41分に位置する。東京とほぼ同じ北緯に位置するわけである。東京より標高が高く植物も少ないから冬の冷え込みは厳しい。草木も葉を落とすわけである。

それぞれの建物を回っていく。二つの塔と時計塔が印象的なシャムス・オル・エマーレは、これまた中央部に鏡張りの間を備えている。建物に描かれた壁画はマニエリスム的な色使いでピンクと黄色が目立ち、やや粗野で偶像味が強いが、これはペルシャ系というよりはテュルク系の影響が強いように思われる。実際ガージャール朝はトルクメン人が打ち立てた国家ということで、なんとなく納得できる。そういえばシーラーズのエラム庭園の建物も同時代のものだが、やはり同じようなマニエリスム的色使いで壁画が描かれていた。この建物、内部に入れるらしいのだが、入るのを忘れてしまった。

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二つの塔が印象的なシャムス・オル・エマーレ

ゴレスターン宮殿はかなり広く、さまざまな建築があるが、一番印象的だったのがバードキール。これはヤズドにあるのと同様の風採りの塔なのだが、内部の装飾は鏡張りに加え鮮やかなステンドグラスに彩られており、まるで螺鈿に装飾された空間にいるような、大変美しい空間だ。この建物だけを目当てにでも入る価値がある。なお、地下室にも入れるらしいが、私はその入り口を見つけることができなかった。

ぜひ大きい写真でご覧に入れましょう。

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バードギールの外観はあまりぱっとしない。外からではその真価はわからないだろう

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バードギール内部①

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バードギールの内部②ステンドグラスが鏡のモザイクに反射して螺鈿のようだ

タラーネ・アスリという建築へ。こちらはヨーロッパからの使節団を迎えるために使われた広間らしい。なんだかシュールな蝋人形とか置いてある。内装は鏡のモザイクが使われており、柱の造形は中東風であるものの、金色を基調とした部屋の配色はどこかヨーロッパ的だ。

そのほか、ちょっとした博物館風になっているところもあったが、なんだか展示がシュールだった記憶しかない。

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タラーレ・アスリ外観。左手には絵画を展示するスペースの入口がある。外観はやはりぱっとしない

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タラーレ・アスリの内装

ガージャール朝の建物であるゴレスターン宮殿はイランの伝統的な建築意匠を引き継いでおり、かなり近代的でありながらしっかりとイランの雰囲気がある。しかしながらイマーム広場の建築群のように圧倒的な富を感じさせるような規模の建築ではなく、どちらかというとこぢんまりした書斎風の雰囲気で、どこか黄昏た感じがする。内憂外患の世相を反映したからなのだろうか?しかしその規模に比して内装は豪華絢爛の極みである。

多くの建築物をめぐってみて感じたことだが、イランの人々は伝統的に、「美」というものにきわめて敏感な感性を持っているように感じられる。それはおそらく、古今東西の文化的影響を受けてきたという理由だけではないだろう。ヨーロッパ的なけばけばしさとは違い素朴な、しかしそれでいて煌びやかで装飾的な建築の数々は、イラン特有の強烈な個性を放っている。

 

時間を潰しつつ宮殿内部を散策し、その後タクシーを拾ってメフラバード空港に向かう。テヘランには国際線の発着に主に使われるエマーム・ホメイニー空港と、国内線の発着が主体のメフラバード空港があるが、今回は後者というわけだ。

空港はこちらも随分と素朴な印象。正直あまり記憶には残っていないが、露骨に工事中だった。荷物を預け、今まで乗った中でも屈指の古い機体に乗り込む。この飛行機、冊子を見るとフォッカーとか書いてある。1996年に倒産したということだから、新しく見積もっても20年選手の機体である。なんとまあ味わい深いことか。

離陸から1時間ほどでタブリーズに到着する。窓からは美しい裾野を引き、山頂部に雪をいただいた火山のような山がタブリーズ到着直前に見えたのが印象的だった。調べてみると、これはサハンド山という休火山らしい。

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左:メフラバード空港 右:美しい裾野を引く火山、サハンド山

空港到着後、荷物を回収しタクシーを拾って、本日の宿、インターナショナルホテルに向かう。ここでもタクシーの運転手が聞いたことのないような音楽を大音量で流していた。インターナショナルホテル(タブリーズ国際ホテル)は古めかしい外観ではあるものの格式を感じるホテルで、部屋は新しく改装されており快適だ。

ホテルの裏手には、なんとかわいらしいイルカの像が設置された謎のプールがあったりして、異国の地にあってどこか親しみを感じる。

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左:インターナショナルホテルのロビーは古いながら格式がある 右 ホテルの窓から見る風景はどこか親しみを感じる

この日は移動が多くけっこう疲れた。まあ異国の地では何をやっても疲れるので仕方がない。ホテル内にある小綺麗なレストランで夕食とした。

明日は一日、タブリーズの観光である。イランの旅もそろそろ終わりが近づいてきた感じがあるものの、規模の大きいバーザールのそぞろ歩きを楽しみにして寝ることとした。