Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

アゾレス諸島とリスボン(9) シントラとロカ岬、ジェロニモス修道院 

2023/7/1

天気:はれ

8:20 サンタ・アポロニア駅(途中Braco de Prata駅で乗り換え)

9:25 シントラ駅

国立宮殿、レガレイラ宮殿観光

(バス1253番→)ロカ岬(→バス1624番→)カスカイス駅(→鉄道→)ベレン

Pasteis de Belenでエッグタルト購入&ジェロニモ修道院

(→バス728番→)サンタ・アポロニア駅

 

The Editory Riverside Santa Apolonia Hotel

 

本日はシントラとロカ岬、そしてジェロニモ修道院のあるベレン地区を観光する。

本来であればシントラ&ロカ岬とジェロニモ修道院のあるベレン地区は別日に観光するのが良いのだが、フローレス島に行くためにリスボン滞在日程を1日分削ったので全てをこの1日に詰め込む日程となってしまった。なかなか大変だが、まあ頑張るとしよう。

ホテルの朝食は朝7時より摂ることができる。一応5つ星を名乗るホテルであるだけあって、レストランはとても広々としており、雰囲気も良い。食事の選択肢も多いが開店したばかりなのでまだ準備が完全には整っていなかった。本日はかなり余裕がない日程で昼食にありつけない可能性は高いと思ったので、昼食を抜く前提で多めに朝食を食べておいた。

朝食

シントラへ向かう電車は朝7時45分発を考えていたが、流石に無理だったので次の電車、8時20分発に乗ることにした。駅のオフィスで「シントラやロカ岬などを周遊できる1日乗車券のはないか」と聞いたところ「ロッシオ駅でしか扱ってない」というが、ここからロッシオに移動する手間も面倒なので、今回は1日乗車券は使わずに訪れることに(これは結果的に正解だった。後述。)

電車に乗車するときは下のような機械にタッチするのだが、これは説明されないとわかりにくい。

サンタ・アポロニア駅の掲示板。いかにもヨーロッパといった感じ
明確な改札がなくわかりにくいが、この機械にNaveganteをタッチ。右は本日乗り込む電車

さて、電車は時刻通りに発車(これはとても大事だ笑)。1つ隣のBraco de Prata駅で電車に乗り換える。人影はまばらだった。10分ほど待つとシントラ方面への電車がやってくる。この電車にはたくさんの観光客が乗っていた。

電車は近郊路線ということで、リスボンのoutskirtに住んでいると思われる黒人労働者もたくさん乗降していたものの、特に悪い雰囲気という感じではない。車窓は特に山の中に入っていく雰囲気もなく郊外の住宅地っぽい雰囲気を維持したまま、あっという間にシントラ駅に到着した。

まだ朝が比較的早く、シントラはまだ人がそれほど多くない。駅からは何個か点在する宮殿に向かうバスが出ているが、レガレイラ宮殿や国立宮殿までは駅から1kmもないので歩くことにした。

シントラから国立宮殿への道は緑豊かで、斜面の下には庭園があって素晴らしい雰囲気。特に急いでいないならば、バスに乗るより歩いたほうが気持ちがいいと思う。途中にムーアの泉というイスラム風のおしゃれな水道がある。道なりに行くと、程なくして国立宮殿のある広場に到着した。

空気の澄んだ緑豊かなシントラ。ムーアの泉もまた美しい

煙突が印象的な国立宮殿

この国立宮殿はイスラム支配時代の建物が増改築を経て長い間使われてきたもの。塔楼のような白い1対の煙突が特徴的だ。入場料は10€。まだ開いて間もないので、人もそれほど多くない。

内部はまさにモロッコで見られるようなモザイクタイルで装飾されており、天井に描かれている絵もいかにもヨーロッパといった雰囲気のコテコテのものではなくどちらかというと質素な雰囲気で好印象だ。所々に設置された窓からは緑豊かなシントラの風景が美しい。

白鳥の間。明るくて好印象
イスラム様式を想起させる美しいタイルワーク

シントラ市街地が美しい

順路の通りにモザイクタイルの美しい部屋を通り、階段を登ると金色で縁取られた天井と美しいアズレージョが見事なドームに出た。紋章の間というらしい。写真を振り返ってみると天井の壁画も細かいが、訪れたときは金色を基調とした天井装飾とアズレージョの群青色のコントラストの美しさに心を奪われ、絵はちゃんと見ていなかった。

黄金のドームとアズレージョが見事な「紋章の間」

ドームからさらに順路を進むと修復中の聖堂や、いかにもヨーロッパの宮殿といった趣の部屋や、イスラム色の強いステンドグラスが印象的な浴室などがあり、イスラーム建築とヨーロッパ宮殿建築が折衷された様式は非常にユニークで興味深かった。

左が浴室。なんだか妖しげ

宮殿を出た

宮殿を出ると細い路地と急斜面が特徴的なシントラの市街地。ここには土産物屋やカフェがたくさん並んでいた。細い路地を潜り抜けて、レガレイラ宮殿へ向かう。

宮殿へ向かう道もまた緑が豊かで、歴史を感じる壁の土色とのコントラストが見事だ。

レガレイラ宮殿は一時期ネットで話題になっていた「リアルドラクエ」風味の宮殿。私はドラクエをプレイしたことがないのでわからないが、写真で見た地中への螺旋階段はなかなか見事で、これは以前からぜひ訪れたいと思っていた。かつての宮殿を19世紀にブラジルの富豪が買い取ってこのような奇抜なギミックをたくさん作ったらしい。この建築は世界遺産にもなっている。

レガレイラ宮殿が姿を現した

レガレイラ宮殿はかなり並ぶのとネットには書いてあったのでオンラインチケットを購入したが、結果的にはオンラインチケットを事前に購入しなくてもたいして並んでいる様子は見受けられず、何の問題もなかったと思われる。(時間帯によるかもしれない。なお、オンラインチケットをGoogleで調べるとパチモノがたくさん引っかかってくるので注意が必要で、日時指定制の謎のチケットを売っているサイトなどもある。本来のオンラインチケットは買った日から120日間有効で、日時の指定は必要ない。なお、公式サイトのリンクにある本来のサイトで買うと11€に加えて1.6€の手数料を払わなくてはいけない。)

宮殿の中は美しい木々が並んでおり緑豊かな雰囲気。要所要所に模式的な地図が設置されているが、この地図はなかなかわかりにくく現在地が把握しづらい。有名な地下迷宮「Poço Initiatico」に向かう矢印があったので、それに従って道を行くと地下迷宮入り口には大行列ができていた。

こちらは未完成の迷宮「Poço Imperfeito」。意外と小さい

行列自体は比較的回転が速く、15分から20分ほど並んでいると迷宮に入ることができた。動画や写真をたくさん撮りながら、ゆっくりと暗い螺旋階段を地底へ下っていく。この螺旋階段は降り切らずに途中で洞窟のような横道を行き、ここを通り抜けると日差しが強い、明るい広場に出た。

渦のようで吸い込まれそうな地下迷宮

地下へ向かう螺旋階段から地上を見上げる
洞窟のような空間を通って、広場へ出る

地下迷宮ばかり注目されるが、宮殿敷地内に点在する建築や、花の咲き乱れる美しい庭園もまた素晴らしい。

庭園もまた素晴らしい

 

レガレイラ宮殿を堪能したのち、バスに乗ってロカ岬へ向かう。

シントラやカスカイス、ロカ岬とその周辺の近郊線やバスを含む1日乗車券「Train&bus 1 day travel card」はScotturb社のバスのうち、レガレイラ宮殿やペーナ宮殿、モンセラーテ宮殿をめぐる路線バス434・435に加え、シントラ〜ロカ岬〜カスカイスを結ぶ403番バスが含まれていた。しかしながら2023年7月1日現在403番バスは運行しておらず、Carrisというバス会社の1253番がシントラ〜ロカ岬の間を、1624番はロカ岬〜カスカイスを結んでいる。

「Train&bus 1 day travel card」Carris社のバスの乗り放題が含まれていないため、現在ロカ岬を訪れる際にはこの1日乗車券は使えない可能性が高い。情報が錯綜している上に鉄道会社HP上の情報も古く、またロッシオ駅で実情を確認していないため正しいことはよくわからないが、Carris社のバスはViva ViagemもしくはNaveganteカードが使用できお得な値段で乗車できるため、シントラとロカ岬を訪れるならこれらのカードのデポジット機能を利用するのが今は一番無難かつお得と思われる。

さて、レガレイラ宮殿前のバス停でCarris社の黄色い1253番バスを待つが、時刻表では30分に1本の頻度であるはずが、1時間待ってもバスが来ない。いたずらに時間を過ごすのも馬鹿馬鹿しいし何かバスが来ない原因もあるかもしれないので、とりあえずバスの始発駅であるシントラ駅に歩いて行ってみた。シントラ駅ではCarris社のバスがたくさん駐車している。何しているんだ君たちは。シエスタの時間?しかしレガレイラ宮殿を出たのは11時半なのに、もう13時である。

なん でキミがここにいるんだ…(弱ペダ風に)

10分ほどでバスが発車し、カーブの多い道路を岬へ向かう。岬に近づくと霧が出てきた。30分ほどバスに揺られて、ロカ岬に到着。Naveganteカードのデポジット利用で1.55€だった。安い。

ロカ岬へ到着

この岬はヨーロッパ本土最西端の岬として有名である。岬にある石碑にはポルトガルを代表する詩人・カモンイスの詩の一節「ここに地終わり海始まる…」が刻まれている。なお離島を含めればヨーロッパ最西端は数日前に訪れたフローレス島のFajã Grandeである。

ここに地終わり、海始まる

風が非常に強くて寒く、飛ばされそうになる。海は美しいターコイズブルーで、境界のぼやけた海霧の塊が海の向こうに浮かんでいて、自然の美しさと強大さを思い知らされるような、何だか不思議かつ圧倒される光景だ。

ターコイズブルーの海が美しいが、それでも険しさ輪を感じる景色

岬の北は断崖絶壁となっている一方で南は次第に標高を下げて砂浜へと続いているらしく、南に目を向けると美しい砂浜が円弧を描いているのが見える。

バス停近くのビジターセンターでは最西端証明書を11€で発行してもらえる。美しい写真が飾られた新しいタイプと、スタッフが訪問日と名前を美しいフォントで記入してくれる、封蝋付きのクラシカルタイプがあり、圧倒的にクラシカルタイプが趣があっておすすめだ。

ビジターセンター前の椅子で風を避けつつバスを待っていると、20分ほどして1624番・カスカイス行きのバスがやってきた。明るい日差しの中をバスは行く。カスカイスではもはや風はなくただ暑いだけで、きっと岬に吹きつけた風はそこで堰き止められてしまうのだろう。カスカイスを観光するほどの時間はなかったので、すぐにカイス・ド・ソドレ行きの電車に乗り込んだ。

カスカイス駅の改札

しばらく電車に揺られ、20分ほどでベレン駅に到着する。

ベレン駅からは徒歩10分ほどで、白っぽい石でできた美しい修道院ジェロニモ修道院に到着するがその前に、ジェロニモ修道院伝統のエッグタルトが買える店、「Pasteis de Belen」に向かう。このエッグタルトは結構歴史があって、日ごろ隠遁生活を送る修道女が数少ない楽しみとしてお菓子作りを始めたのが起源らしい。この店は修道院に向かう道中にあり、大行列とは言わないまでもそれなりに混雑していて、人気が窺われた。今回は2個購入してみることに。1個あたり1.3€だった。

Pasteis de Belenでエッグタルトを買う

さて、エッグタルトも購入したことだし、いよいよジェロニモ修道院に向かう。

この修道院エンリケ航海王子ヴァスコ・ダ・ガマの偉業をたたえ、1502年に着工。海外からもたらされた富をつぎこみ、着工から100年ほどかけて完成したという(地球の歩き方曰く)。残念ながら入り口横の24聖人の像が施された門はインスタ系の人が写真を撮りまくっていたこともあり写真を撮り忘れてしまった。

修道院に隣接する教会は入場料なしで入ることができる。こちらの教会はサンタ・マリア教会といって、壮大さと精緻さ、清潔感を兼ね備えた美しい装飾、色鮮やかなステンドグラスが圧巻だ。装飾的ではあるもののチュリゲラ様式のような成金オーラに満ちた禍々しい感じは全くせず、上品な雰囲気である。しかしまあ、貿易で得た国富をこんなところにつぎ込んでは国は衰退するわな。実際ポルトガルでは大航海時代に貿易や植民地支配によって得た富は上流階級によって宮殿造成や浪費に費やされ、市民生活の向上に還元されることは決してなかった。庶民の生活レベルが向上しないということは、国の富を維持するための人材がいないということなわけで、ただでさえそれほど人口の多くないポルトガルの植民地への人材流出もあいまって、結局ポルトガルの繁栄は長くは続かなかった。なんだかどこかで聞いたような、いや現在進行形で衰退の進んでいる(そしてなぜか誰も止めようとはしない)日本の実情に重ね合わせてしまう。

入り口近くにはヴァスコ・ダ・ガマとカモンイスの墓石があり、この墓石も結構凝っていたものらしいがあまり予習していなかったためスルーしてしまって、写真も撮り忘れてしまった。なんというかキリスト教建築は情報量が多い。装飾にすべて神へ祈りをささげる空間を美しく彩る以上の目的がないイスラム圏のモスクや廟建築と違って、装飾や絵画・彫像それぞれに意味を持たせるという思考回路は非常に西欧らしいものがある。深みがあるともいえるし、美術は美しければそれでいいのにいちいち理論や背景知識を学ばねばならないのは素直に楽しめなくてもったいないともまた思う。

教会出口付近に安置される、ヴァスコ・ダ・ガマとカモンイスの墓石

次に修道院へ。チケットは修道院入り口ではなく、より修道院の正面に近いところにある別の入り口を入ったところにある券売機にて購入する。大人一人あたり10€である。順路を行くと立派な階段を登り、次に2階の回廊へ。

まるで珊瑚の骨のような装飾の施された繊細な柱が独特の趣を出している。こちらも装飾的だが上品で決していやらしい感じがせず、大理石の明るい色も相まって大変清楚な印象を受ける。中国人の観光客が多く、自撮りやインスタ写真の撮影に勤しんでいる整形女子などが散見され、思わずほくそ笑んでしまった。なぜここまで自分を好きになれるのか想像もつかない。

それとは対照的に日本人の観光客はほとんどいない。6月や7月初頭には休みが取りづらいだけなのかもしれないし、円安で海外に行くのが財政的に厳しいのかもしれない。しかし、未だに盆と正月(とゴールデンウイーク?)しかまともに休みが取れない社会の実情も疑問に思う。

我々は自分たちの国の将来や、無批判かつ因循姑息に受け入れる自分たちの社会システムに問題意識や当事者意識を持った方がいいのではないだろうか。運命の甘受というのも大切だが、自分たちの手で未来を変えることはできるはずなのに社会の目を恐れて行動を起こすことを放棄し、ただただ未来を悲観しているさまは滑稽でならない。そもそも「社会の目」とか「世間様」とかいう謎の概念自体が文化の更新を妨げている可能性があり、こちらもまた再検討の余地がある。というか社会とか世間様って誰のことだよって話。

また話がずれてしまった。階段を降りて1階の回廊へ。同じマヌエル様式ではあるが2階とデザインされた時期や設計者が異なるため、少し異なった趣の装飾がなされている。アズレージョの施された聖堂などもあり、雰囲気が良い。

1階は2階の装飾とは少し趣が異なる

さて、修道院を出て広場になっている公園を通り過ぎ、線路の向こうにある発見のモニュメントに行こうと思ったが跨線橋がない。地図を見てみると1km以上歩かねばならない。これが朝の涼しい時間だったらともかく、日差しが強烈でかなり暑く、わざわざ歩いていくのが馬鹿馬鹿しくなったので、線路の向こうに聳える発見のモニュメントを撮影して退散することにした。

発見のモニュメントは線路と反対側にあって行きにくい

朝の行動開始からすでに9時間ほど経過しており、さらに暑さでかなり疲労しておりすでに行動限界ギリギリの状態だが、何とかしてホテルに帰らねばならない。修道院の近くにはバス停兼路面電車の停留所があるが、何番に乗ればいいのかがよくわからない。バス停にある路線図をよく見てみると直接サンタ・アポロニア方面へ行く728番のばすに乗ればいいらしいことがわかった。10分ほど待つと728系統のバスがやってきたが超満員だ。バスの運転手は40歳くらいのおばさんだった。日本ではバスの女性運転手なんて滅多に見かけないが、これも社会のジェンダー観の違いによるものだろうか。スリに警戒しながらバスに乗り込み、20分ほどバスに揺られて、サンタ・アポロニア駅の1個手前のバス停で降車。昨日と同じレストラン、A Muralha Tasca Tipica Lisboaへ。

本日もまたお昼を抜いたのでたくさん食べることに。エビのガーリック炒め8€と、ご飯とフライドポテト付き肉のアソート10€。適度に塩気の効いたエビのガーリック炒めが特に美味しく、肉のアソートは値段の割にボリュームがありカロリー補給にはもってこいだ。そして相変わらず素晴らしいコストパフォーマンスである。最終日ということで、ワインを飲むことに。せっかくポルトガルに来たということで自分の好きなポートワインを選択した。こちらはグラスで4€程度と比較的安価に提供されており、豊かな甘味とワインのようなフレッシュな風味を併せ持つ、素敵なワインだった。

食事を終えてホテルに帰還。すでに朝8時にホテルを出てから10時間以上経過している。ホテルについてシャワーを浴びると、あまりの疲労ですぐに寝てしまった。

夕日に照らされるサンタ・アポロニア駅

長かった旅行もいよいよ明日は最終日。

ホテルの近所でリスボンでも歴史ある旧市街、アルファマ地区をめぐる。