Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

アゾレス諸島(4) 曇りのピコ島とワイン畑の景観

2023/6/26

天気:くもりのち晴れ(夕方)

9:15 Pico447においてレンタバイク拝借

ピコ島をレンタバイクにて1周

サンロケ

Lagoa do Capitao

Lajes do Picoにて昼食

島南部~西部に広がるワイン畑の景観を観光

17:30 PICOWINESにてワイン試飲会

19:00 夕食

 

Casa do Mar泊

 

 

本日はレンタバイクにてピコ島を1周する。

朝のCasa do Mar。どんより曇り

朝起きるとあいにくの曇りである。宿の主人Stellaさんは「朝はこんな天気だけど午後から回復するなんてこともよくありますよ」という。まあ晴れることを祈るとしよう。素敵なコテージで朝食をいただいたのち、まずはPicowinesへ。開店時間を確認し、試飲や見学受付が朝10時からであることを確かめた。

醸造所の周囲にはマス目状のワイン畑が迫る。開店時間をチェック

さて、マダレナ中心市街へバイクを借りに向かう。
Pico447では原付を貸し出している。値段は1日33€、現金のみ。さらに100€のデポジットが必要であるが、Picosportで野ざらしにされているレンタバイクよりも値段は安いし、丁寧に整備されている印象を受ける。店員の女性はやや神経質な感じで、バイクの動画を撮るように指示されたが、島のみどころも簡単に説明してくれた。本日は曇っており景色が望めないので、あまり山の方に行くことはおすすめできないそう。ぬうう。自分のあとに1組のカップルがレンタバイクを借りていたが、そのあとに別のカップルが訪れたときには貸し出すバイクが尽きており、バイクを借りることができなかったようだ。やはりこういうところは開店直後に来るに限る。

さて、出発。まずは10時に開店するというPICOWINESに受付に行き、試飲の申し込み。試飲は20€で、白ワイン3種類、赤ワイン1種類、ポートワイン1種類の計5種類を楽しめるという。ピコ島はワインの島。ドライブ後のワインはきっとおいしいに違いない。試飲会が開かれる最後の時間帯である17時半を予約し、サンロケへ向かう。

サンロケは多少の起伏のある直線的な道を行く。朝早く天気も良くないので、風はひんやりして心なしか寒い。そして相変わらず車がかっ飛ばしていくのが恐ろしい。20㎞ほど走るとサンロケへ。

サンロケに至る数キロ手前にはAdega A Buracaという小さなワイン醸造所がある。これはピコ島を案内する数少ないホームページに乗っていた家庭的なワイン醸造所でレストランを併設しているそう。ワインの試飲もできるらしいがドライブ中であり無理である。建物は溶岩と白壁のかわいらしい家屋だ。

今ワインの製造過程を見れるかと聞くと、残念ながらそれは9月に行うそうで製造過程を見ることはできなかったが、ちょっとした博物館になっている建物の内部を覗くことができた。家屋の入口ではワインは売っていない(Family businessだからワインは家庭で消費されてしまうそうだ)が、果実酒が売っていた。残念ながら飛行機の荷物に入れられないので買うのはあきらめたが、なんだかかわいい瓶に入っておりおいしそう。

家庭的なワイン醸造所”Adega A Buraca”
家屋の内部はちょっとした博物館になっている。入口では果実酒が売っている

そこから数キロするとサンロケの市街に至る。

海岸沿いの道は石畳で舗装されている。海沿いには小さな植物園があり、そこから山の方に目を向けると修道院を改装したユースホステルが大きく見える。サンロケはマダレナよりレトロな雰囲気が残っていて素晴らしい町。どちらに宿泊するかは正直迷ったが、ワイン畑や船が出る港へのアクセスは格段にマダレナの方がよかったことから、最終的にマダレナへの宿泊に切り替えた。しかしながらこっちに宿泊しても悪くなかったかな。

教会を回収したユースホステルが見える。植物園には竜血樹

さて、サンロケの植物園でしばし休憩した後、いよいよ展望台のある山の方へ向かう。残念ながら雲は晴れる気配がなく、登れば上るほど寒くなっていく。ウインドブレーカーを着込んだ。空気中の水蒸気も多く見通しもそれほど良くないが、振り返ると遠くにサンロケの町並みが小さく見える。ここは晴れると素晴らしい景色だそう。そうだろうな。

展望台からの全景

坂を登りきると大小の火山の噴火口に囲まれた独特の雰囲気の高原に出る。霧がかなり近くまで迫っており、遠くまで見通すことは困難。せっかくなのでLagoa do Capitaoには行ってみたものの、本来目の前に大きく広がるはずのピコ山は全く見えず、霧の中で湖のほとりに鵞鳥のような大型の鳥がたたずんでいるのが見えるのみだった。ただひたすら風が強く、寒い。

高原では独特の景色が広がる。鵞鳥を見に湖に来たわけではないのだが

しばらく高原を走り標高が下がってくると、ラジェス・ド・ピコ方面の海岸線が見えてきた。時間もすでに13時近い。この町で昼食をとることにしよう。

ラジェス・ド・ピコはピコ島の中ではおもにホエールウォッチングの拠点であるらしく、たくさんの観光客でにぎわっていた。とくにフランス人が多い。ツアーか何かだろうか。昼食はRestaurante Ritinhaで。こちらもあるホームページで紹介されていたものだが残念ながらそのページに掲載されていたおいしそうで安価な日替わりランチはなく、えびフライのセットを頼んだ。こちらはエビを素揚げしたものにフライドポテトとサラダを添えたシンプルな料理だが、ドライブで疲れた体力を回復させるには十分だ。

Lajes do Picoの風景。険しい山並みが見える
Restaurante Ritinha。料理はシンプルなエビのフライ

さて、ここからは伝統的なワイン畑の広がるピコ島西岸へ戻る、30㎞弱のドライブ。

しばらくは森の中や海岸沿いの険しい道を走ったりするが、ある地点まで来ると突然石垣で組まれた独特のワイン畑が現れる。黒い石垣に鮮やかな黄緑色のブドウの葉が鮮やかだ。Miradouro da Pontinhaの付近では畑の中に石で組まれた伝統的な家屋が並んでおり、とても趣のある雰囲気を醸し出していた。

ワイン畑に囲まれた伝統的な家が並ぶ

ここからはひたすら黒い石垣と黄緑色のブドウの葉の並ぶワイン畑に縁取られた道のドライブとなり、ほどなくして有名なフォトスポットのあるMoinho Do Fradeの近くへ。風車のある風景が有名だが、残念ながら一方通行だったので近くにバイクを停めて徒歩で風車へ向かう。

風車の付近は観光客でにぎわっている。

風車を登るとあたり一面に整然と広がる石垣と、その中にそっと生えるブドウの樹が並ぶ景色が壮観である。風車の中にはお土産屋があるが、ここでお土産を買っている人はみかけず、店番のおばさんがめんどくさそうに携帯をいじっていた。(なおこの日は曇りであり景色はあまり美しくなかった。翌日朝にきれいに晴れた朝焼けのワイン畑の景色を撮影できたので、そちらの写真もぜひ参照いただきたい。)

風車の周囲は観光客でにぎわっている。畑の中ではおじさんが農薬をまいていた

畑の中では農家の人がブドウに農薬をまいていた。この起伏のある迷路のようなワイン畑でワインを育てるのにはかなりの手間と困難を伴うに違いない。これほどに精緻かつ壮大な石垣を築き、その中で500年以上ブドウを育ててきたこの島の人々の暮らしは尊敬に値する。それほどまでに、彼らの文化や生活にワインというものが深く浸透しているということなのだろう。

さて、ここまでくるとマダレナ市街は近い。良い景色が拝めなかったことが残念だが、レンタカーオフィスにスクーターを返却しに行く。と、なんとオフィスの営業時間なのに受付のお姉さんがいないではないか。彼女に電話をすると、「すみません学校の仕事があってもどれないんです、17時半には戻りますから」などと言っている。わかりましたと二つ返事をするがよく考えると17時半からワインの試飲会じゃないか。もう一度電話をして、もう少し早く来れないか頼み17時ごろに来てもらうことになった。

(というか営業時間内にこれはアリなのか笑。別にそこまで腹は立たないが、日本ではまず「社会的に許されない」所業だろう。まあ日本は日本で謎ルールが多すぎる感があるし、仕事とプライベートのちょうどよい折り合いのポイントというのはそれぞれの文化によって違うのだろうな。)

なんとかレンタバイクを返却し、少しだけ時間があるので教会や近くの天然プールを散策しつつ、PICOWINESへ。

天然プールや教会を散策。少し晴れてきた。朝顔の紫が美しい

PICOWINESの試飲会には、私以外にイタリア人やスイス人など5人のヨーロッパ人が集まった。本日ワインの説明をしてくれるのは、オリーブ色の瞳が特徴的な天然パーマのおばさんである(名前は失念した…)。入口を入ってすぐにワインを貯蔵する金属容器や大型の樽が置かれている。なんだか機械の音がするが、これはワインを濾過する機械の音であるそう。大きな樽や容器が立ち並ぶ様子はなかなか壮観である。

こちらのワイン醸造所はピコ島協同組合といって、ワインを栽培する零細な農家が共同でワインの醸造を行う施設だそう。ピコ島のワイン畑の石垣は砕いた溶岩で作られていることは先述の通りだが、土壌の乏しいピコ島では隣のファイアル島から土壌を運び込んで葡萄の栽培を行っているらしい。機械によるブドウの収穫は困難で、収穫はすべて手作業。膨大な労力がかかることは、想像に難くない。

PICOWINESの受付とワインの貯蔵庫。樽の大きさと人を比べてほしい

さて、本日のワインは先述の通り、白ワイン3種、赤ワイン1種、そして酒精強化ワイン1種類(ようはポートワイン)である。試飲した種類は以下の写真の通り。

本日テイスティングを行うワイン。白3種、赤1種、そしてポートワイン1種類

白ワインは何種類かの白ブドウを混ぜて作った左側2種類のワイン、ベルデーリョのみで作った真ん中のワインがある。島で育てられている白ワイン用ブドウは島で独自の進化を遂げており、遺伝学的にも他の地域のものとも少し異なっているそう。なお、ピコ島ではかつてベルデーリョが主に栽培されていたようだが、病害(フィロキセラ)によって多くが枯れてしまい、現在では島の栽培面積の1/3程度を占めるのみ。ピコ島の白ワインは、潮風のもたらすミネラルの影響で酸やミネラルの味が強く、"aromatic and gastronomic"な風味が特徴であるそう。偉そうにワインのテイスティングをするほど舌も語彙も肥えてないのでこの3種の味の違いはあまりよくわからなかったが、全体的に風味は似通ってあり、香り高いが酸味が強くフルーティ味は薄く、力強いテイスト。

次に赤ワインへ。赤ワインはこの島では主に日差しの強い南斜面で栽培されているそうだ。品種はメルローで、これは特にこの地域特有の発達を遂げたものではなく、フランスから移入されたもの。赤ワインはいわゆるミディアムボディで、ネット上で発見したの某新聞の連載記事によれば「赤ワインは残念ながら評価に値しなかった」そうだが(というか人が造ったワインを評価に値しないという単語で一刀両断する姿勢はどうなのか。ワイン評論の世界ではそれは当然のことなのだろうか?)(https://www.asahi.com/and/article/20191213/300185867/)、とても薫り高く味もフローラルな感じで、個人的にはかなり好み。

最後に酒精強化ワイン(ポートワイン)のラジド。正直ワインについてそれほど予習をしてきたわけではないのだが、このラジドというのはこの島で最も有名なワインで、木樽で発酵されるそうだ。樽の香りとやさしい甘み。私はもともとポートワインはかなり好きだけど、これはすばらしい。残念ながら飛行機に何回も乗る都合上買って帰るのは困難だが、赤ワインとポートワインはかなり気に入った。

赤ワインとポートワインは特に自分の好み

最後に20€を払って、ワイン醸造所をあとにする。ピコ島やワインに対する造詣がかなり深まった感じがする。饒舌な語彙と気取った専門用語でワインを形容して物を知った気になるのも良いが、せっかくなのでこの島の風土を含めてもう少し素直にワインを楽しんでもいいんじゃないかと思う。説明してくださったおばさん、ありがとうございました。

本日は我々の宿をディスった主人が経営するというレストラン、O Petiscaに敢えて行ってみることにした。予約をせずに19時の開店直後に入る。アゾレス諸島ではたいていの店は予約ができるが、開店直後であれば予約しなくても多くの場合は入れるという印象がある。

この店ではアゾレス諸島名物というマグロの煮付けを注文。17€なり。先ほどワインをたくさん飲んだので夕食時にはあえてお茶を頼むことにした。マグロの煮付けはほっとする味で、味付けもさっぱりしていてよい。坊主憎けりゃ… ということもあろうが、とにもかくにも料理はおいしくお勧めはできる、そんな店である。

宿へ帰る際道のわきに広がるワイン畑も、実際にそこで栽培されたブドウで造ったワインを飲んだ後ではすこし違って見えるように感じる(気のせいかもしれない)。

天気も次第に晴れてきて、夕食に出かけることには赤みを帯びた夕日がはっきりと差し込むようになっていた。

宿に戻ると雲はすっかり晴れ、ピコ山の凛とした姿が全貌を見せた。

明日の朝は早起きして再びワイン畑を見に行くことにしよう。きっと朝の日差しに照らされた美しい石垣の光景が見られるに違いない。