Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

アゾレス諸島(5) ピコ島からファイアル島、フローレス島へ

2023/6/27

天気:晴れ(ピコ島、ファイアル島、フローレス島)

午前中ピコ島観光

1130マダレナ港→1200オルタ港

ファイアル島観光(Miradouro do Monte Carneiro, Capelinhos)

SP0860 1455(1610)HOR 1545(1700)FLW

 

Inatel Flores泊

 

朝5時半ごろに起床する。あたりが明るくなってきた。

窓の外を見てみると、昨日と同様ピコ山が美しくくっきり見えている。これはきっとワイン畑に散歩に行けば素晴らしい景色が拝めるに違いないと直感し、朝の6時くらいに宿を出て散歩に行くことにした。

昨日夜の祭りの騒ぎはどこに行ったのか、朝の町は静寂に包まれており石畳の道には人一人おらず、朝の静かな空気が素晴らしい。

1㎞ほど歩いて風車の展望台につくと、ワイン畑が朝焼けに染まった光景が大変に美しかった。昼間ならば出会えるだろう強烈な日差しと陰影の強い景色もよいが、おだやかな光に照らされる朧げな景色にもやさしさがあってよい。海峡の向こうには翼を広げたようにファイアル島が横たわっている。

暖色の光に照らされた朝のワイン畑の景色はすばらしい

さて、素晴らしい写真を撮ることができたので、ゆっくりと宿に戻ることにしよう。少し雲が出てきたが、宿の近くには規則正しく作られたワイン畑の石垣がありこちらも規模は小さいが素晴らしい。

 宿に戻るとすっかり明るくなっていた。

Casa do Marのテラスからはベンチの奥に火山噴火によりできた小島と青い海、ファイアル島が大きく見える。この景色こそ本来のこの宿の真骨頂の一つだと思う。滞在中にその景色に接することができたのは幸運だった(フローレス島ではあまり晴天に恵まれなかったので、余計にそう思う)。

ゆっくり朝食を食べ、主人Victorにお礼を述べたのちにCasa do Marをあとにする。Casa do Campo de São Franciscoとはまったく趣も方向性も異なっていたが、こちらもいつまでも滞在したくなるようなアットホームですばらしい宿であった。宿のホスト夫妻に感謝の意を述べたい。

 

さて、船でファイアル島に向かうが、出発の11時半までしばし時間があるのでマダレナの街はずれにあるワイン博物館へ向かう。

ワイン博物館
ブドウの品種や香りなど、一通りの解説がある

ワイン博物館は伝統的なワイン畑に面して作られており、ブドウの品種やワインの製造方法などについて一通りの解説がなされているが、ここの一番のお目当ては立派に成長した竜血樹である。入場料は2€。受付でスーツケースを預かってもらうことができた。一通り展示を回ったのち、竜血樹のたくさん植えられた庭へ。特に庭の中央に鎮座する老木が壮観だが、数年前に撮影されたと思われる写真と比較すると明らかに樹勢が落ちており、木の半分はえぐり取られたようになくなってしまっている。かつてはこの木の下にベンチが置かれていたようだが、今やこの木の周囲は柵におおわれており、近づくことはできない。倒木の危険性があるということだろうか。少し残念だ。

手前半分がえぐれたようになってしまった老木

しかしながらこの老木以外にも大きく茂ったたくさんの竜血樹が植わっている。アゾレス諸島では街路樹としてよく見かけるものの、ここまで大きく茂ったものはそう数は多くない。

なおここで竜血樹について解説しておくと、竜血樹というのは様々な定義があり一定しないが基本的には「成長するとブロッコリーもしくはキノコのような形状の大木となり、樹皮に傷をつけると赤い樹液を分泌する植物種の一群」をさし、一般的にはカナリア諸島マデイラ島などマカロネシア原産のDracaena dracoソコトラ島の特産種Dracena cinnabariの二種類をさす。私自身はかつて高校の図書室で世界遺産の写真集を見て、この特徴的な樹形を呈する植物の存在を知っており、一度は目にしたいと思っていたので、老木を見て結構感動した(もっとも写真で見たのはソコトラ島Dracaena cinnabariの方で、さらに特徴的なキノコのような樹形をしている)。アゾレス諸島に存在する竜血樹については、もともと分布していたものなのか、それともヨーロッパ人の手によって移入されたものなのか議論があるらしい。竜血樹から得られる赤い樹液は、バイオリンに使用する木の塗装や、傷薬などの用途として使われていたことがあるそうだ。

庭園にたくさん植えられたDracaena draco

なおさっきから竜血樹に出会って勝手に感動しているがこの博物館の趣旨はあくまでワインに関する展示である。しかしながら英語のピコ島紹介サイトに「The eye-catchers the, however, are the beautiful old dragon trees」などと書かれてしまっているように、どうしても独特の樹形をもつ竜血樹の方に目が行ってしまう。

ワイン畑を眺めることのできる展望台や、かつて実際に使用されていたブドウを砕く機械がある建物などもちゃんと展示されていた。

あくまで趣旨はワイン博物館である

竜血樹ワインに関する造詣もさらに深まったということで、フェリーターミナルに向かう。海へ一直線に伸びる道の向こうにファイアル島が見える。日差しが強い。なんだか「ぼくのなつやすみ」的な青春風味の旅情をそそる風景であるが、ここは経度だけならほぼ東京と正反対のところにある(日本人に)知られざる離島であり、こんな日本的な価値観とはまるで無縁の地域である。

ターミナルは団体客でごった返していた。オルタまでの道のりは3.8€とかなり安い。

港に着いた船はフェリー会社のホームページに掲載されていた立派なフェリーではなく、なんだか旧式の客船でちょっと頼りない感じもするが、これはこれで趣があってよいという説もある。

マダレナのフェリーターミナル

時間になるとフェリーはゆっくりと港を離れる。

ピコ島とマダレナの町が次第に小さくなっていき、波の穏やかな青い海をしばらく走ると、ほどなくしてオレンジ色の屋根や教会の立ち並ぶオルタの町が見えてくる。ファイアル島に到着である。

今回乗ったフェリーは少し古い船。オルタに到着した

Hortaの町並み

ターミナルに到着して、すこしオルタの町を散歩しようとも考えていた。実際に少しだけオルタの道を歩こうと試みたものの、あまりの暑さに散歩をする気も失せてしまったため、タクシーでMiradouro do Monte CarneiroとCapelinhosを回ることにした。なお、事前調査ではMiradouro do Monte Carneiroというのは知らず、オルタのフェリーターミナルにあるタクシーの料金表(ファイアル島のタクシー料金は事前交渉制である)を見てどうせ観光地だろうと踏んで名前を調べ、どうやら見事な展望台らしいということで、行くことに決めたもの。

フェリーターミナルの外でうろついているとタクシー乗り場にタクシーが現れた。上記2個を回ってから空港に運んでもらうプランで50€。ちょっと高いが、まあいいか。日本で同じことをしたらもっとお金を取られそうだし、ここはよしとしよう。

タクシーはまずMiradouro do Monte Carneiroへ向かう。こちらは市街地を離れて急なヘアピンカーブを繰り返すとすぐに到達するが、道中でドライバーが頻繁にクラクションを鳴らしていた。どうやらここは観光バスが立ち寄ったりするスポットらしく、バスに自身の存在を知らせるためにこうしているらしい。ほどなく展望台に到着すると、快晴の天気もあいまって、目の前にはオルタの市街と、海の向こうに美しい裾野を広げるピコ山が見えた。

しばらく夢中になって写真を撮り、展望台をあとにする。

いったん市街に戻り、次にCapelinhosへ向かう。こちらは島のほぼ西端にあり、島の端から端まで移動する旅程である。時折素晴らしい景色の見える、カーブの多い道を30分ほど走ると、荒れ果てて放棄された古い家と真新しい家が混在して立ち並ぶ地域に入った。ここは50年ほど前のCapelinhosの大噴火で荒れ果て、古い家は破壊され放棄されたのだという。噴火が終息したのちここに移り住んできた人はドイツ人が多かったそうだ。ほどなくして黒っぽい砂の丘が見えてくると、Capelinhosである。

Capelinhosは先述の通り50年ほど前、1年ほど継続する大噴火によってできた島の新しい部分である。航空写真でファイアル島を見ると、島の中央部にまるで直線状に小さな火口が並んでいる風景を目にすることができる。噴火口は島の西へ西へと移動し、陸地は西方へ拡大していく。これはおそらく大西洋中央海嶺でプレートが拡大し、その上に乗っかった島が移動していく一方で、ホットスポット自体はほとんど移動しない(ことになっているが、最近は異論もあるらしい)ため見かけ状新しい噴火口が西方へ移動していく、ということのようだ。

このような横一列に並ぶ噴火口はファイアル島のほかにピコ島や、まるで剣のような形をしたサンジョルジュ島でも、Google mapで簡単にみることができる。プレートテクトニクスを身近に感じられ、非常に面白い。

航空写真では綺麗に一列に並ぶ火口が確認できる。わかりやすいように印をつけてみた

ここCapelinhosには噴火で荒れ果てて放棄された古い灯台が立っている。この地下はなかなかデザインの凝ったカフェなどが配置された空間となっている。10€払うとこの灯台の中に入ることもできるが、別にそこまでの価値も感じなかったので近くを散策し、とりあえず近くにある丘に登ってみることに。

噴火に伴って放棄された灯台。この地下はなんだかお洒落な空間になっている

この丘、大したことはないように見えたが、昼ご飯を食べていない空腹状態と強い日差し、そして3歩進んで2歩下がるような砂の地面が災いしてかなり大変だった。登りきると、眼下に広がる崖や黒い山並み、崖に露出するバームクーヘンのような地層が見えている。この光景は三宅島や伊豆大島などでもみられるものではあるのだろうが、せっかくファイアル島まで来たのだからと来てみた甲斐があった。

実際に目にするとなかなか興味深く、ダイナミックだ。なお、ここでは昨日PICOWINESの試飲会で同席したイタリア人とばったり出くわした。彼は本日この島で一泊するそうだ。良い旅を!

さて、CapelinhosをあとにしてCastelo Brancoにある空港へ。空港でタクシードライバーに別れを告げる。この空港も規模が小さく地方空港の趣がある。サンミゲル島からピコ島へ移動するときと同様に小さなプロペラ機に乗って、いよいよフローレス島へ向かう。

オルタの空港へ到着

フローレス島はコルヴォ島とともに、アゾレス諸島の主要9島の中ではユーラシアプレート側ではなく北米プレート側に乗っている2つの島のうちの一つである。伝統的な町並みや文化の色はそれほど濃くないが豊富な降水量やダイナミックな地形からなる自然の美しさはほかに類を見ないといわれている。

実はプロローグに書いたように、当初はこの島に訪れる予定はなくピコ島から船でテルセイラ島に移動しテルセイラ島で2泊、そしてリスボンに3泊する比較的余裕のある計画であった。しかしながらガイドブック書いてあった「アゾレス諸島の住人に好きな島を尋ねると、一番好きなのは自分の島、そして二番目はみなフローレス島と答える」…などという文章が妙に引っ掛かり、なかなか行ける地域でもないので迷った末テルセイラ島とリスボンの滞在を削ってフローレス島の滞在を2泊分捻りだした(飛行機の時間や運航日などの都合もあり、この作業は困難を極めた)。サンミゲル島の宿のスタッフや本日のタクシードライバーも「フローレス島は自然が好きならば本当に素晴らしい島だよ!!」と口をそろえて言う。期待は膨らまずにはいられないというものである。しばらく陸地の見えない空を行くと、突如として黒々と横たわる島が現れた。フローレス島である。飛行機から降りると、島の風は緑の香りがした。

いよいよフローレス島へ

本日の宿はInatel Flores。Santa Cruz das Floresという島随一の集落にあるホテルである。宿に関しては明日宿泊予定のAldeia da Cuadaに2泊するかこちらにまず1泊するか迷ったものの、市街地での買い物やレストランに困らないSanta Cruz das Floresでの宿泊が1日必要と考えて、Inatel Floresに1泊、Aldeia da Cuadaに1泊が適当と考えた(Aldeia da Cuadaでは2日連続して予約が取れなかったという事情もある。フローレス島は宿のキャパシティがいずれも低く、滞在を考えるなら早めの予約を心がけるなど、注意が必要)。

Inatel Floresは広い窓が特徴のこぎれいなホテル。ホテル自体はやや古いらしく、客室のトイレも多少の経年劣化を感じさせるものの部屋は広く、立地は素晴らしい。窓からは海の向こうにまるで青ヶ島のような風情のコルヴォ島が浮かんでいる。

Inatel Floresは明るい雰囲気のホテル。窓からコルヴォ島

さて、まだ17時にもなっていないので、近所のスーパーに買い物に行きつつ、本日のレストランを探すことにする。フロントのおばさんは一見つっけんどんにも見えたが、おすすめのレストランを尋ねると紙に書いて丁寧に教えてくれた。Santa Cruz das FloresではO Moreao、O Mergulhador、Fora d’Horasがおすすめで、特に海鮮が好きならO Moreaoをとのことであった。

Santa Cruz das Floresまでは徒歩で10分ほど。人影も観光客もまばらで、のんびりした雰囲気である。スーパーで飲料水を手に入れ、次にレストランのある市街の中心へ向かう。途中に島の規模には見合わないほどの立派な教会があったが、扉は閉じており中の様子を覗くことはできなかった。

島の人口規模に不釣り合いなほど立派な教会

O Moreaoの方は19時からの開店とのことだったが、O Mergulhadorの方はすでに開店していた。1時間以上待つのはさすがにだるく、こちらの店に入ることにした。こちらの店は魚よりはどちらかというと肉料理の方が得意そう。いずれのメニューもフローレス島産のものを使った料理だそうだ。おなかが空いていたので、カロリーをたくさん摂れそうなフローレス牛のTボーンステーキ(ようは脊椎の椎体周りの部分だろう)を注文した。ついでにリンゴジュースも。すきっ腹には肉が効く。

O Mergulhadorの店内とTボーンステーキ。力強く元気の出る味

店員の若い男性はアジア人に対してややunfamiliarな印象であったが、まるでアクア団員の女性のようなハチマキを巻いた若い女性の方は突っ張った見た目とは裏腹に少しシャイで気が利き好印象であった。いや、男性の方も実はシャイで、その表現型が女生とは違うだけである可能性もある。笑。

食事が終わるとホテルまでは徒歩で戻るが、先ほどより湿度が高く風が強くなってきた気がした。天気予報を見ると明日は曇りで、風が非常に強いそう。せっかくフローレス島を訪れたのだから晴れてほしいものだが。

Inatel Floresのベッドはふかふかで広くて寝心地がよく、あっという間に眠りについた。