Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

パタゴニア(5) 玉座の上の乞食

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6:30より マグダレナ島+マリア島 半日ペンギンツアー

午後 市街観光+α

Hotel José Nogueira泊

 

5時ごろに起床した。

6時半からペンギン島ツアーがあり、これに参加する。プンタアレーナスの近辺にはペンギンの生息地が何箇所かあり、一方はマグダレナ島。こちらはマゼランペンギンが生息している。もう一つはフエゴ島のポルべニール付近にキングペンギンの生息地がある。

どちらにもツアーが出ているが、マグダレナ島ツアーは午前中だけなのに対し、キングペンギンツアーは終日ツアーとなる。元来プンタアレーナスは休息日という扱いで、長い旅程で体調を崩さないように、もしくは何かあった時のために余裕を持たせた日程だったので、午前中で終わるマグダレナ島ツアーを選択していた。この日程の余裕が、クレジット不正利用に関わる各種行政手続きのための時間にそっくりそのままなるとは皮肉なものである。

朝6時ごろにホテルを出た。ここでフロントの方より、本日分の弁当を受け取る。どう見ても2食分くらいある量の食料が渡される。サンドイッチ、ドライフルーツ、そしてナッツ。現金が少ない自分のために、わざわざたくさん用意してくれたらしい。どう感謝を伝えるべきだろうか。ミニバーで水を買うほどのお金も勿体無いので、悪い水でもいいからくださいと言ってボトルを差し出すと、いい水をあげるよ、と言ってボトルを水で満たしてくれた。涙をこらえきれなかった。重ね重ねお礼を言って、ツアーに向かった。

朝6時半にホテルからほど近い旅行会社のオフィスに集合する。ここで受付。受付終了後、旅行会社のバスに乗り込む。どちらかというと女性の観光客の方が多い印象だ。まあペンギンかわいいからだろうな。40分ほどバスに乗ると、マグダレナ島への船着場に到着した。

マグダレナ島への船着場

マグダレナ島への船は比較的小ぶりだが、40-50人程度は乗っているだろうか。船にガイドが乗り込み、マグダレナ島の自然と生物についての解説がされる。マグダレナ島には主にマゼランペンギンとウミウの生息地になっている。他に褐色の鳥が生息しているそうだが、名前は忘れてしまった。この褐色の鳥は嘴の力が強く、服を食い破られてしまうから気をつけるように、とのことである。マルタ島にはシーライオン(アシカ)が生息しているようだが、こちらの島は天気が良くなければ近づくことができない。行けるかどうかは天気を見て判断するが、今のところは微妙です、と言っていた。船の運転手はリズムの速いノリノリの音楽を流しており、船の揺れも軽快に感じる。

 

1時間ほどすると、マグダレナ島の船着場に到着した。船を降りると風が強く、鳥の生息地特有の強烈な匂いが漂っている。おそらく鳥のフンの匂いなのだろう。45分ほど時間を与えられ、この間に散策を終えるように、ペンギンに触れたり近づきすぎてはいけない、給餌は禁止である、等々の説明がされた。

 

マグダレナ島には島をぐるりと1周まわるように遊歩道が設置されており、海に近い低地にはマゼランペンギンが、高台にはウミウが多く生息するという微妙な棲み分けが成立している。カップルのペンギン、子育て中のペンギン、群をなすペンギン、そして独り者のペンギン。鳴き声はあまり美しいとは言えないが、とてもつぶらな瞳をしており、なかなかかわいらしい。

 

地面に多く認められる穴はペンギンの巣で、ここで子育てやら何やらが行われている。人々は自分のペースで歩を進めているが、自分は歩くのが割と速いのでさっさと進む。するとペンギンが道を横切ったり、まるでついてくるかのように一緒に歩くようなシチュエーションに出会ったり。なんだか童心に帰ったような気分である。ツアーの宣伝文句は「ペンギンと歩くツアー」だったが、これは文字通り、ペンギンと歩くツアーだ。同じツアーに参加していたスイス出身のおばあさんより、ペンギンは両親から泳ぎや餌の集め方を教わるらしい、という話を聞いた。

こちらはウミウ

とても穏やかな気持ちで島を1周。ツアーの人々の帰還を待って、船は出発する。

本日は天気が好転し、風も落ち着いてきたので、マルタ島に向かうという。こちらはシーライオン(アシカ)の生息地として知られている。マルタ島に上陸はしないが、島のかなり近くまで接近し、シーライオンを眺める。海にはたくさんのコンブが見られる。シーライオンの鳴き声は、まるで所謂ジジイの呻き声的な感じで美しい響きは微塵もなく、集団で寝転がりダラダラしている雰囲気と相俟って、非常にシュールである。

 

マルタ島の様子を全員が見えるように船が何回も回転したのち、本土へ引き返す。船では温かいココアと簡単なお菓子が出された。波に揺られて、1時間ほどで海岸に。さらに40分ほどで、プンタアレーナス市街に戻った。

 

時間はまだ11時を回った程度。

本日は風が強いが、気持ちの良い晴れだ。澄んだ空の青が美しい。この日は昨日と打って変わって観光客はまばらで、町は静かだった。

 

今日は“Policia de investigaciones de Chile” という、国際的な業務を行っている警察の一部署で、今回のクレジットカード不正利用被害はチリで受けたものであるという証明、所謂滞在証明書をもらう。このオフィスは昼の13時までしか開いていない。午前中のみのツアーで大変助かった。受付でめんどくさそうに仕事をするおじさんに昨日と同様の事象を説明。カード会社の名前を聞かれたので2枚のカードの会社名を伝え、滞在証明を得ることに成功した。これでようやく現地警察のお世話から解放されたというわけである。本当に大変だった。

近所のスーパーでは2Lの水を購入。1本で850ペソと安価で手に入った。所謂地元民向けのスーパーであるが比較的綺麗。値段が書いてない商品もあるが、これは店の中央部にあるバーコードリーダーで値段を確認できる仕組みらしい。

両替はホテルの人おすすめのScottという両替商で行った。アルゼンチンペソを手に入れておくことが目的。12000CLPが10000ARPに両替された。この両替屋の近くに、明日の朝ウシュアイア行きのバスが出発する、Bus-Surのオフィスとバス停があることを確認しておいた。

 

今回のカードの件に加え、警察に行ったり慣れない作業をしたりして本当に疲れた。今日はホテルでゆっくりすることにする。

いただいたたくさんの食料を、昼食と夕食に充てることにした。本当は美味しいレストランに行って地元のグルメを楽しんでいるはずだった。水色を基調とし水玉をアクセントとした装飾、天蓋付きのベッド、そしてシャンデリアが輝く美しいスイートルームの一角で何をしているかといえば、実質的に無心した穀物やサンドイッチという、まるで戦時中の配給のような食糧をひたすら食べているのである。まさに「黄金の玉座の上に座る乞食」。これは豊富な資源を活かせずに最貧国の地位に甘んじていたかつてのボリビアという国を揶揄する文句であるが、あまりに自分の今の境遇を的確に表しており、自分が惨めすぎて乾いた笑いがこみ上げくる。

この部屋でシリアルとナッツを夕食として食べる。最高に寒い

昨日に引き続き諸々の連絡を行い、旅行会社からは「現地手配会社からBookingで予約しているホテルと同じホテルの予約を行い、私の予約は自分で取り消す、ということが可能そうだ」という回答を得たので、早速この算段での手配をお願いした。

何もかも失って身にしみたのは、海外における一個人の無力さ、現地にオフィスを持つ旅行会社の力、人との繋がりの大切さ、そして手を差し伸べてくれた地元の人々の優しさである。我々は異国の地に入る機会を与えてもらい、右も左も分からない状況で見えない人々のサポートを得て旅行させてもらっているだけなのだ、ということを改めて強く実感させられた。自分で手配できるのになぜ高い中間マージンを払って旅行会社に金を払わなければいけないのかと思っていた部分があるのも事実であるが、今回のような被害に遭遇する可能性を考えれば、彼らに払うカネはむしろ安いくらいであった。それは最近海外旅行に行く頻度が高くなっていたからこそ忘れがちであった点であり、私自身が知らぬ間に自分の力を過信してタカをくくり、謙虚さを失っていた可能性は常に自覚しなければいけない。

これみよがしに自撮りを披露し、全能感丸出しで、まるで自分の存在意義など疑ったことなど一度もないような無邪気さと自己肯定感に溢れている所謂海外旅行好きの人々を多く見かけるが、そんなものは所詮まやかしである。地に足のついていない裸の王様である。彼らの派手で煌びやかに見える主張に触れすぎて、自分の世界観が毒されていなかったか。再考する必要がある。