Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

パタゴニア(7) フエゴ島の自然

2/2

8:00-13:30ごろ

フエゴ島国立公園観光(簡単なトレッキングあり)

世界の果て号乗車

15:30-17:30ごろ

ビーグル水道クルーズ

Hotel Albatros泊

 

本日はフエゴ島の自然を満喫すべく、午前中はフエゴ島国立公園の散策ツアー、午後はビーグル水道クルーズに参加する。世界の果て号はフエゴ島国立公園内にあり、こちらは国立公園とセットでの観光となる。

6時半ごろ朝食の食堂が開くが、ピースボートと思われる大量の日本人の老人が群れをなしていた。食堂が開くと、彼らはなぜか列を作って並び始める。他の客は列など作らず好きなように好きなものを取っているのに、彼らは長蛇の列を作って順序よく食べ物を取っていくのである。実に日本人らしくて笑ってしまった。

おそらく彼らにとっては日本人の集団の中で列をなさなければ集団から白眼視されるという恐怖が無意識のうちにあるのだろう。しかしこれはあまりにも滑稽な構図である。日本人にとっての常識は、海外の人にとっては必ずしも常識とは限らない。海外旅行というのはそういう無意識のうちにある因習を再検討することに大きな意味があるのに、これほどの集団で海外に押しかけると、集団の中での同調圧力が大きくなり、外界と接し、自分の中の因習の滑稽さに気づくこともままならないのである。なんともまあ、哀れな話である。昼ご飯にありつけるかどうかがわからないので、ひとまずかなり多めに朝食をとっておいた。

朝食

8時ごろに本日のガイドが迎えに来た。人が良さそうな感じの男性だ。何個かのホテルを回って客をピックアップしていくが、最終的に全員で10人程度の小規模なグループとなった。

真夏ながら新雪に覆われた山々

車を西へ走らせるとほどなくしてウシュアイアの市域が終わり、20分ほどでフエゴ島国立公園の入り口、世界の果て号の駅に到着した。

昨日の冷たい雨は山の上の方では雪となっていたようだ。美しい新雪がナンキョクブナの森を覆っている。ウシュアイアでは今が盛夏の季節であるはず。盛夏であっても月の平均気温が10度に満たない気温が低い地域ではあるが、少し冷え込むだけで山々が雪に覆われるとは。自然の厳しさに驚く。吐く息は白く、展望台から世界の果て号からはもくもくと濃い白煙が上がっているのが見える。

 

しばし自由時間&トイレ休憩となり、ガイドはここで様子を見ていたが、どうも世界の果て号が混雑しておりなかなか乗車できないと考えたのか、フエゴ島国立公園の散策から始めることになった。

世界の果て号の駅から離れるとすぐに静かな森の中を走るようになり、10分ほどでフエゴ島国立公園の一角に到着した。

 

空は鉛色の雲に覆われている。眼前にはくすんだ色の静かな入江が広がり、岸辺は少し緑色を帯びた岩石が露出しており、海藻が打ち上げられている。大型の鳥が湖岸で静かに佇んでいた。ここには最南端の郵便局があり、ここでパスポートにスタンプを押したり、手紙を出したりすることができる。簡単なお土産も売っていた。特にキッタリアが寄生していた枝から作ったキーホルダーは、後から色々なお土産屋を覗いてみたがここでしか売っていなかったので、買う価値がるかもしれない。(キッタリアについては、後ほどの説明を参照ください)

 

再び車で国立公園内を移動する。

山々は樹形の美しいナンキョクブナに覆われている。ところどころに現れる湖と森林、雪をいただく山が静かで落ち着きのある雰囲気を形作っている。熱帯雨林のワサワサした雰囲気とは対照的な静謐さ、清潔感があり、大変に好ましい。車の中では国立公園に生息する動植物の写真が掲載されたボードが回覧された。

美しい森を行く

しばらくしてトレッキングコースの入り口に到達した。ここからはナンキョクブナの森林を堪能する。森はやはり静かで、木々は地衣類やコケに覆われており、まさに太古の森といった雰囲気だ。残念ながらキッタリアはほとんど見つけられなかったが、わずかに小さいものを発見した。

キッタリアというのはナンキョクブナなどの枝に寄生するキノコの一つで、かつてインディオが食用にしたことから、「インディオのパン(Indian's Bread)」と呼ばれている。今回ほとんど見られなかったのは、このキッタリアの発生するシーズンが11月から12月にかけてであるかららしい。薄いオレンジ色の丸いキノコが木々にたくさんくっついている景色を楽しみにしていただけに、少しシーズンを外してしまったのが残念に思われた。

左:説明をするガイド 右:小さなキッタリアが残っていた

湖を見渡す展望台をこえ、しばらく歩くと再び入り江の奥に至る。ここで再び、しばし散策。

設置された看板が「フォークランド諸島(マルビナス)はアルゼンチンの領土です!」と強い主張をしており思わず笑ってしまった。

 

今度はビジターセンターへの移動。トイレ休憩を兼ねている。

ビジターセンターは相変わらず入り江に面した高台にあり、この周囲には枝がコブ状に盛り上がった不思議な形の木がある。ガイドに聞いてみると、まさにこれがキッタリアの寄生した木であるらしい。ガイドが指差した地面の方を見ると、黒くなりたくさんの穴が空いた丸いスポンジ状の物体がたくさん落ちている。まさにこれがキッタリア。胞子を吐き出した後、枯れて落ちたらしい。一部オレンジ色をわずかに保ったものが残っている。このユニークなキノコの生態について、もっと知りたくなった。

 

 

再び車に乗り込み、世界の果て号へ。

世界の果て号の森林側の駅は、国立公園入り口側の駅よりも比較的空いており、10分ほどで乗ることができた。紺色に塗装された車体の世界の果て号は、乗客を集めていよいよ出発。軌間の狭い世界の果て号は、ゆっくりと森林の合間を縫って走る。

世界の果て号に乗車

しばらく走ると、切り株がまばらに残る、ひらけた場所を走るようになる。ここはかつて囚人が木の伐採を行なった場所であるらしい。雪の残る山々と、綺麗なU字谷。まるでアルプスのような高山的景観である。

 

しばらく走ると中間駅で、列車交換も兼ねて10分ほど停車する。

この駅から少し登ったところには小さな滝があった。ヤーガン族がかつて儀式で着ていたという縦の縞模様の服、その色をアルゼンチンの国旗のそれに置き換えたコスプレをした人が待ち構えており、彼らと写真撮影している人がいて思わず笑ってしまった。

 

再び列車に乗り込む。10分ほどで元の国立公園入り口駅に戻ってきた。美しいU字谷が広がる景色を横目に、ウシュアイア市街へ帰還。時間は13時半をまわっていた。

U字谷が美しい

まずは両替である。両替は「Jupiter Casa de Cambio」というところで行った。というかGoogle Mapでの評判は最悪だが、ここしか両替所がない。50ドルを1ドル1000ペソで両替されたので、50枚の1000ペソ札をゲット。これは公式レートより少し良い(レストランでは、1ドル1100ペソ換算でドル払いできる店もあるようだ)。インフレの激しいアルゼンチンでは今や札束を持って歩くのが基本である。

狙っていたランチの店「El Viejo Marino」は残念ながらすでに新規の客受け入れを停止しており、その上土曜夜と日曜日は閉店らしい。残念。15時半のクルーズ船の出発まで簡単に市街を回ってみたが、良さげだと思った店は価格帯が高く、めぼしいレストランを見つけられなかった。仕方なく昼食は抜きとし、世界の果て博物館に行ってみることにした。

入場料は近隣にある世界の果ての家博物館と合わせて4000ARP程度である。あまり古い建築のないこの地域にあって多少の趣がある建物の世界の果て博物館は、そこまでめぼしい展示はないもののヤーガン族の風俗などが簡単にまとめられていた。また海に生息する生物の剥製も展示されているが、如何せんこれから実物を見に行くのでそこまでありがたみを感じない。かなり規模が小さい博物館で、通過するように見学を終了した。

世界の果て博物館

次は世界の果ての家博物館。両開きのドアは狭く、ドアノブにザックの紐が引っかかった。受付のおじさんに「(ドアノブにザックをひっかけた人は)今日二人目だね!」と爆笑された。

こちらはかつて政府機関の建物として使われていたもので、プンタアレーナスの豪邸のような豪華さはないが、多少の趣を感じる。当時の議事堂や調度品なども展示されていた。

世界の果ての家博物館

15時ごろに船着場の近くにあるブースにてバウチャーを船のチケットに交換。船着場から船に乗り込んだ。

クルーズ船に乗り込む

この船に乗っているのはほとんどがヨーロッパか南米の人々で、アジア系の人間は私一人しかいなかった。15時半に船は出発。午前中のツアーで一緒だったブラジル人の壮年夫婦と同席した。彼らに良いレストランを知っているか尋ねると、「Salitre!ここは素晴らしいレストランですよ!」と教えてくれた。しばらくすると、船室の外に出られるようになる。雪をいただいた山に囲まれたウシュアイア市街が小さくなっていく。

ウシュアイア市街

船の中ではちょっとした飲み物や軽食を注文することができる。しばらくして小さな島に到達し、ここで一旦下船。

小さな島で下船

この島ではフエゴ島周囲の島に生息する不思議な植物をたくさん見ることができた。展望台からは雪を頂いた鋭い山々が立ち並んでおり、壮観。

左のふかふかな緑の塊のような植物はBalsam Bogという

しばらくして船に戻り、ビーグル水道を東へ進んでいく。対岸の大地に小さな集落が点在するのが見える。おそらく「世界最南端の町」プエルト・ウイリアムズが見えているのだろう。なお、このプエルト・ウイリアムズはチリ領である。

野鳥やアシカが多数生息する島の近くで、船は速度を下げ、この島をゆっくりと1周した。ここに住んでいるのはペンギンに形の似た鳥だが、残念ながらこれはペンギンではなくウミウの1種である。アシカは相変わらず老人の呻き声のような声をあげていた。背景にある山々が雪を頂いており、まるで南極の景色のようだ。

 

しばらくするとクルーズ船は今まで来た道を戻り、40分ほどでウシュアイアの港に到達した。

港に戻ってきた

一旦ホテルに戻る。開店時間に合わせてブラジル人夫婦の教えてくれたレストラン、Salitreにいくことにした。

Salitreはホテルから少し離れており、10分ほど歩いたところにある。坂の途中に作られたレストランは趣があり、窓からの景色も素晴らしい。数日ぶりのまともな夕食ということで散々迷い、メスティーソ風の美人女性スタッフを困らせてしまったが、最終的にBondiolaという豚肉の煮込み料理とフエゴ島産の羊肉を使ったエンパナーダ、そしてハニービールを注文した。しばらくすると、かわいらしい盛り付けの料理が提供された。

 

エンパナーダとボンディオラ。いずれも素晴らしかった

何日ぶりのまともな夕食だろう。美味しい味付けの料理が身に染みる。

途中で何組か集団で予約なく店を訪れた人がいたが、予約済みの席が多いようで入店を断られていた。中心市街から少し距離はあるが、どうやら知る人ぞ知る人気店らしい。値段は全体で12000ARPを切る値段で、かなりリーズナブル。素晴らしい料理と気さくなスタッフのサービス。ありがとうございました。

夕刻になると山を覆っていた雪もあらかた溶けてなくなっていた

フエゴ島国立公園の自然は決して派手さやわかりやすさはないものの、静謐で上品な魅力にあふれており、個人的には大変良い訪問だったと思う。あまりにも素晴らしかったので、本当は終日フエゴ島国立公園のトレッキングに充てたいと思ったほどだった。もし再訪が可能ならばキッタリアのシーズンにまた訪れたい。久しぶりに美味しい料理で身も心も満たされ、ホテルのベッドに潜り込みゆっくり寝た。

 

(今回の記事を編集したあとで気づいたことだが、ウシュアイアを訪問した他の方のブログと比較すると、自分の写真は人工物や旅行の経過を記録する画像が少なく、自然そのものの写真が多い気がする。同じ場所でも人によって見ているものが大きく違う。非常に興味深いことである。)