Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

モロッコ(2) マラケシュ② 

2023/3/12

終日マラケシュ観光

AM

ベン・ユーセフ・マドラサ

マラケシュ博物館

クッバ・バアディーン

ダール・エル・バシャ博物館

PM

マジョレル庭園

イヴ・サンローラン美術館

Le Jardin Secret

夕食(Dar Cherifa)

スーク散歩

 

Riad Argan泊

 

本日は終日マラケシュ観光の日である。

マラケシュは多くの観光スポットがあり、とても1日で回りきれる量ではない。本当ならば3泊して観光したいところであるが、今回はかなり詰めた日程であるから、とりあえず観光スポットを行けるだけ行ってみることにした。

朝食は7:30。様々な種類のパンにジャムやはちみつをかけていただくスタイル。しぼりたてのオレンジジュースがとてもおいしい。

朝食

朝食後に少しだけ屋上に出てみる。かかっている鍵を外して屋上へ。乾いた気候のマラケシュは朝晩けっこう冷えてひんやりしている。朝焼けに染まる美しい家並みを楽しんだ。

まずはマジョレル庭園。これは昨日リヤドの主人に聞いてみたところ「オンラインで予約してチケットを取らないと入れない」と言っていたが、サイトを見ると「オンラインチケットを取ることを推奨」とは書いてあるが「オンラインチケットがないと入れない」とは書いていない。ほかの人のブログを読んでも「朝早くなら予約はいらない」という記事が大勢であったので、まずは近くの駐車場からタクシーで向かうことにした。

朝は通りに面した店が扉を閉じており、とても整然とした雰囲気である。怪しげな連中も朝はまだ巣穴から出てきていないようだ。

駐車場にはタクシーがたくさんたむろしており、その交渉の取り仕切り役と思われるオッサンが。相場は50DHと聞いていたのでさっそく価格交渉。30DHで行けないのかと聞くと最初は100DHなどと言ってきたが首を振ると自動的に50DHになった。これ以上は下がらないという。ほかのタクシードライバーに40DHでは無理かというと不愉快なことにそんなもの無理だ!という調子でまくしたてられた。くそったれ。仕方ないので50DHで行くことにした。ドライバー「もしもっとくれるなら大歓迎だYO!」だそうだ。ふざけろ。

タクシーはメディナを出て、城壁の周りをぐるっとマジョレル庭園へ向かう。途中、クトゥビヤモスクのミナレットが見える。イスラーム諸国のミナレットのスタイルは多種多様で、マグリブスタイル、トルコスタイル、マシュリクスタイル、ペルシャスタイルや中央アジアスタイル、インドスタイルなどいろいろな様式があるが、ここではこの四角柱のマグリブスタイルがほとんど。かつてのイベリア半島もそうで、セビリアアラゴンの教会にもかつてのミナレットが教会施設に転用されて残っている。

ほどなくしてマジョレル庭園の前の大通りに至り、タクシーを降りる。…マジョレル庭園の前にはすでに長い行列ができ、時間の書かれたボードが掲げられて行列が整理されている。係員に聞くとすでに予約でいっぱい、予約しないと入れない、だそうだ。なんということ。タクシー代をわざわざ払ってここにきて徒労とは、なんとも情けない。

あわてて近くにある看板のQRコードから公式サイトで空きをチェックする。とりあえず直近で空いていた13時に予約のチケットを入れた。すぐ近くにあるイブサンローラン美術館は12時に予約して、まとめて観光する算段とした。地図をよく見るとメディナまでは案外歩けそうな距離。時間もあるので、メディナまで歩いてみることにした。メディナへの入口にある門の付近は野菜や果物のスークとなっておりごちゃっとした雰囲気だが、そこを通過すると普通に観光客が歩いており、少しホッとする。しばらく通りを道なりに歩き、クッバ・バアディーンに到着。こちらのクッバはムラービト朝時代に作られ現存する数少ない建築である。素朴な構造、まるで人の影を彫り抜いたような形の窓がいかにもイスラーム建築といった感じである。通りの向かい側には大きなモスクがあるが、モロッコという国はほとんどのモスクを異教徒立ち入り禁止としている。この「どこを異教徒立ち入り禁止とするか」というのにも国の宗教に対する姿勢が見え隠れして結構興味深い。

左:クッバ・バアディーン 右:ベンユーセフマドラサの入口

クッバ・バアディーンから通りを少し回り込むと、ベンユーセフ・マドラサに到達する。これは16世紀、サアド朝時代に建築されたもので、アルアンダルス・イスラーム建築の最高峰ともいわれている。入場料は50DH。この地域独特の白・コバルトやターコイズ、イエローが使われた精緻なモザイク模様が壁を埋め尽くしている。扉やバルコニー、回廊の柱などにはところどころで木が用いられており、建築にぬくもりを添えていた。パティオには四角い池があり、水の音が涼しげな空間を演出している。

階段を登って二階に向かう。ここは神学生のフジュラ(部屋)となっているところ。フジュラはとても狭い部屋になっており、ここで学生たちが神学や哲学、アラビア語学などの学問にはげんでいたと考えると感慨深い。フジュラがいくつか向かい合わさって吹き抜けに面しており、吹き抜け部分の柱や手すりは細かい意匠が施されている。一部のフジュラからはパティオが美しく見えた。

次はほぼ隣にあるマラケシュ博物館。

こちらは19世紀後半に作られた宮殿で、女学校としても使われていたという。入場料は同様に50DHだが、ベンユーセフ・マドラサと打って変わって静寂を楽しめる。中央の広いパティオではチェロのような独特の厚みある弦楽器で奏でられるアンダルス音楽が流れており、天幕の張られ大きな木の細工が吊り下げられた独特の雰囲気もあいまって、重厚感のある雰囲気。奥には天窓にステンドグラスの施されたハマムなども残っていた。

時間に余裕があるので椅子に座ってゆったりした時間をすごしたのち、マラケシュ博物館を後にした。12時にはマジョレル庭園方面に戻らねばならないので、その道の途上にあるダール・エル・バシャ博物館に向かう。

ダール・エル・バシャ博物館への道中にて

入口は赤く装飾されており、暖かみのある風情。カフェが併設されており、カフェ利用のみにすることもできるが内部の見学は60DH。モロッコらしい意匠の施された小空間を通り抜けると、オレンジや椰子、オリーブなどが美しく手入れされた中庭に出る。

わざわざここで写真を撮るために来たと思しき派手な格好をした女二人組が、写真スポットで図々しくも何枚も写真を撮っていて、彼らの自己愛の深さに心底うんざりさせられた。目の前の景色ではなく、「その景色の中にいる自分」の方が大事という精神性は、私には到底理解し難い。いいねの数に裏打ちされた自己肯定感というのもなんだかガラスの靴のような脆さがある。

オレンジやオリーブ、ストレリチアなどが配置された美しい庭

緑の鮮やかさと土色・白色の壁、青空のコントラストが美しく、この庭は数あるマラケシュの庭の中でもっとも美しいといっても過言ではなかった。

さて、そろそろ時間になったのでイブサンローラン博物館・マジョレル庭園の方面に向かうことにする。朝来た道を20分ほど歩くとイブサンローラン博物館のある界隈に至る。初めて歩く道は不安でも、二回目ともなると慣れてきて短く感じたりするものである。暑い日差しの中12時と書かれた看板の前で15分ほど待つと、博物館の中に案内される。自分の荷物は大きかったので、受付に預けることを求められた(無料)。

内部はイブサンローランの描いたデッサンやパリコレで実際にランウェイを歩いたオートクチュールの数々が飾られていた。なお写真撮影は禁止である。それほど大きい博物館ではないが、出口近くのビデオコーナーではイブサンローランの人生が簡単にまとめられていて、ディオールの弟子であったこと、マラケシュに滞在し現地の人々の服装からヒントを得たこと、初めて黒人モデルを採用したデザイナーであったこと、などなど大変勉強になった。ファッション自体はフランスの舶来品文化の感が否めないが、これはこれで面白い世界だとは思う。

サボテンなどの植えられた出口を通って、マジョレル庭園へ。こちらは相変わらず待機列がすさまじい。それほどの価値があるのかは実際に入ればわかるというもの。ペットボトルの水を飲みながら、順番を待つ。30分ほど待つと、予定の時間を15分ほど過ぎて、中に案内された。庭園は広く、竹が植えられていたり錦鯉が飼われていたりと、なかなかオリエンタルさを感じさせる部分もあれば、サボテンが集められているコーナーもあったりしてなかなか興味深い。ところどころにモロカンブルーが鮮やかに配置され、お洒落な空間を醸し出している。

マジョレル庭園はおそらくヨーロッパ人のモロッコツアーには必ず組み入れられているものと推定され、ヨーロッパ人比率が特に高かった。確かにとても美しい庭園ではあるが、マラケシュにはここ以外にも美しい庭園はたくさんある。この庭園にこれほどまで並んで入る価値があるかどうかは正直私には判断しかねる感じであった。

マジョレル庭園の待機列はこのような感じである

さて、先ほどの道をふたたびメディナに戻る。午後にもなると怠惰な人が街に繰り出すからなのか、町に雑然とした感じが戻ってくる。よく言えば賑わいということなのだろうが。だいぶ歩き疲れてきたのと、日差しがきつく疲労が蓄積してきたので、Le Jardin Secretにて30分ほど休憩をすることにした。入場料は80DHだったと記憶している。

中庭には先ほどのダール・エル・バシャ博物館ほどの洗練はないものの、非常にゆったりした空気感で、木陰で英気を養うことができた。

オリーブの木陰でくつろぐ

さて、観光スポットはおおむね巡ったので、あとはスークをそぞろ歩きしたのち、ダール・シェリファというレストランに向かうことにする。

スークはまるで迷路のように入り組んでおり、グーグルマップがあまり役に立たない。iphoneに入っているマップアプリの方がより正確な感じがした。靴屋の区画、鍛冶屋の区画、ランプ屋の区画など、歩いていて飽きることがない。途中スークの店主に絡まれているヨーロッパ人がいた。店主は「とにかくお金をくれよ!100DHくれれば明日何かプレゼントするから!」といった調子で、人のよさそうなヨーロッパ人は苦笑している。カモにされるのは日本人だけではないのだなあと妙に納得した。

ダール・シェリファは非常に入り組んだ路地の奥にあり、普段はドアが閉じているので大変わかりにくい。たまたま外国人を連れたガイドがこの店に入っていくタイミングだったので到達できたが、彼らがいなかったら店を見つけられずに帰っていた可能性がある。

ダール・シェリファの入口は地味でわかりにくい

ここのレストランでは、モロカンスタイルのサラダと牛肉のタジンを注文。のども乾いていたので、オレンジジュースを追加した。先に入っていた団体客や若者グループも去っていき、椅子に座って本を読むフランス人おばさん二人組のみが、静かに時間を過ごしていた。料理は牛肉の塊がやや大きく、少し胃がもたれてしまったものの、なかなかにおいしくこちらも満足であった。

歴史を感じる空間で、ゆったりした時間が流れる

早夕飯もすんだので、リヤドに帰還。

明日は朝10時半に迎えの車が来るということなので、夜はリヤドでゆったりとくつろいで過ごした。