Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

パキスタン(2) カラコルムの山襞へ

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7時ごろ出発、ファイサルモスク観光

1015ISB 1115KDU

スカルドゥからギルギットへ車で移動

Kallisto hotel

 

 

 

本来は本日車でカラコルムハイウェイにてチラスまで移動する計画であったはずなのだが、5日目に使う予定であったギルギットからイスラマバードへのフライトが欠航になり、旅行会社が急遽旅程を変更した。本日は飛行機でスカルドゥへ向かい、そこから車にてギルギットへ移動。明日、明後日の旅程は変更なし。その後ベシャム→イスラマバード→サッカルへと移動する。

正直私だったら急遽変更した旅程は逆向きにする(イスラマバード→チラス→カリマバードの移動方向を変えないで、カリマバードの滞在を1日削り、スカルドゥからイスラマバードに戻るだろう)と思うのだが旅行会社にしかわからない現地事情があると思い、出発まで日数も少なかったのでひとまず上記の旅程を受け入れることにした。ギルギット行きの飛行機は欠航が頻繁にあるということは聞いていたので、しかたないところではある。

 

朝早く起床し、ホテルの朝食ホールへ。朝食は7時からということでまだ朝食は準備半ばであったが、パンとジュースを軽くいただく。

ガイドとともに車に乗り込み、空港までのわずかな時間の隙間を利用して、ファイサルモスクに向かう。

 

ファイサルモスクはイスラマバードのシンボルとも言える巨大なモスクで、サウジアラビア国王ファイサルの寄進によって1986年に完成した。あまり見慣れないピラミッドのような角張った幾何学的な形状のドームに、コンテクストを合わせるように尖った4つのミナレットが印象的だ。礼拝の時間ではないが、多くの観光客で賑わっていた。

 

靴を預けて、敷地内へ。敷地に入るには靴預かり料が必要なようだが、ガイドが負担してくれた。敷地に入って施設を細かくみてみると、巨大で印象的な施設であるものの工法や建材は伝統的なものを採用しておらず、基本的には鉄筋コンクリートで、遠くから見るよりも(こう言っては申し訳ないが)若干安っぽい印象がある。昨晩雨が降っていたため床は水溜りになっており滑りやすい。

ファイサル・モスク

礼拝堂は礼拝の時間ではないため電気が消されており、これまたこう言っては申し訳ないが工夫のないそこらへんのビルの扉のような色ガラスの扉から、中の様子を少しだけ望むことができた。なんだかがらんとして、思ったほど細部に宿る美を感じない。

手洗い場のある1階へ下るが、やはり簡素なモザイクタイルの装飾があるのみで、イスファハーンやシーラーズの荘厳なモスク、というよりは、巨大な国立礼拝施設、といった趣で思ったほど見応えがなく首を傾げてしまった。まあ、これも人工都市イスラマバード、そしてパキスタンという国の歴史の象徴でもあるのだろうか。

 

車に戻り、数ブロック行ったところにパキスタン・モニュメントがある。ここはまだ早朝であるため閉まっており、遠くから眺めるのみ。モスクやバザールの内装を花びらのように配置したモニュメントは遠くから見ると美しい(が、ファイサルモスクのように近くで見ると首を傾げるのかもしれない。そこはわからない)。

パキスタン・モニュメント

再び車に乗り込む。ガイドが「チャイを飲みませんか」と言って、途中で掘立て小屋のようなチャイハネに停まり、しばし休憩。チャパティとチャイを出す、簡単なお店だ。店名は〇〇 هوتل(ホテル)と書いてあるが、これは将来的にドライブイン→レストランホテルにしたいからこういう名前をつけるらしい。店先でチャパティを焼く仕草は見事だ。こんな都会だが牛を飼育している人がいるらしく、チャイハネの前の道をたくさんの牛が歩いていく。これがパキスタンの日常光景のようだ。

 

チャイハネは地元の人々が集っており、外国人である私に奇異の眼差しを向けてくる。薄暗くハエの舞うチャイハネだが、これも現地体験と考え、ポジティブに考えることにした。

 

一息つくと我々一行はイスラマバード空港へ向かい、空港に着いて下車。ドライバー氏とは2日後に再び会うことになるという。

イスラマバード空港国内線ターミナル

昨日はよくわからなかったが、イスラマバード空港は比較的新しく、広い。スルーガイドとのことで飛行機にはガイドと2人で乗り込む。日本語があまり上手ではないためガイドをつけているというよりも日本語を話せるボディガードを雇っているような感覚である。

飛行機に乗り込む。

パキスタン航空の飛行機では離陸時にクルアーンの一節が流れ、かなりイスラーム色が濃い。クルーの制服は一昔前の雰囲気が漂っている。簡単な軽食が出たが、緑色のプラスチック製のトレイは金色の縁取りが剥げ、年季が漂っている。トレイに入ったサンドイッチと謎のお菓子は、いずれも可もなく不可もなくという印象であった。

機内の軽食

あいにくの天気で飛行機は雲の中を飛んでいくが、1時間ほどすると雲が切れ、雪をいただく山々の間に流れる川、小広い盆地が現れた。

ほどなくしてスカルドゥ空港に到着である。

 

スカルドゥ空港ではカシミール地方への入境審査がありかなり並ぶ。本来はパスポートとビザを見せねばならないはずだが、ガイドが事情を話すと列から外されてさっさと通された。

スカルドゥからは昨日と別のドライバーの車に乗り込み、特に市街観光することもなくギルギットへ向かう。盆地状のなだらかなスカルドゥ近郊を過ぎると、次第に両側に高い山が迫り、谷は狭隘となっていく。程なくして、カチューラ湖の周囲を散策するために車は停まった。

この辺りは人が住んでおり、農耕のための用水路が整備され、石垣と畑、そしてポプラ並木が整然と並ぶ。杏の花が満開の季節は、それはたいそう美しいらしいが、新緑に囲まれた今の季節も決して悪くない。しばらく地元民向けの歩道を歩くと、カチューラ湖に到着した。

カチューラ湖

カチューラ湖は山に囲まれた小さな湖という印象で、夏にはパキスタンの人々が押し寄せて大変な人だかりになるそうだが、この季節はとても静かである。ガイドはこのあたりにあまり来たことがないらしく昼食を食べるレストランについて旅行会社とあれこれ話しており、こちらの不安と不信感の増幅に一役買っている。「大丈夫、私を信頼してください」と言われてもなあ。結局湖のほとりにあるレストランで食事することになったが、「誰がこんなに食べられるの?」という量が注文されていた上に、皿を空にするとわんこそばのように料理を持ってくるのでモヤモヤが募る。あまりに盛ってくるので、「あまり食べると車で気持ち悪くなるのでやめてください」というと不可思議そうな顔をして手を止めた。

そんなに盛られても食べれません

食事が終わると車に戻り、再びギルギットへの道をゆく。

 

先ほどガイドに大量に食事を盛られたためワインディングロードは若干気持ちが悪く、ヒトの胃腸事情を考慮せずに食事を持ってきたガイドに多少の苛立ちを感じながら酔い止めを服用した。

谷はどんどん深く狭くなるが、時折出現する扇状地には緑が生い茂り、人々の家が見える。その様子は大変美しいが、同時にこんな過酷な環境で生活している人々がたくさんいることに、心底驚きを隠せない。

 

アフガニスタンの山岳地帯に住む人々もこういう環境で生きているのであろうことは想像に難くない。米国はアフガニスタンでこんな連中を相手に戦っていたのか。わずかな平地を見つけて家を建て、過酷な環境で自給自足に近い生活を送る人々に、広い家で毎日飽きるほどの食事を食べ、満ち足りた暮らしをしている米国人が勝てるはずもないことを、眼前に広がる光景から直感的に理解した。

僅かな平地を利用して人は暮らす

谷はどんどん狭く険しくなっていき、その様は美しいほどだが、時折岩に穴が開けられている様子が見えるようになってきた。ガイドは対岸の岩の穴を指さして、「あそこではルビーやサファイアがとれます。あそこに家があります。彼らは宝石でお金を稼いでいます。」振り返ると今まで見たこともないほどに深いV字谷が続いている。

右の写真の穴が宝石を掘る穴。人々は過酷な環境をものともせずに暮らす

思えば高校生になったばかりの頃、南アルプス聖岳を登山するためにかつて運行していたしずてつジャストラインバスで畑薙第一ダムへ向かった時、そのあまりの景色の雄大さと谷の深さに心底驚き、窓際に張り付いていたものだが、8000m峰が立ち並ぶヒマラヤ山脈の支脈カラコルム山脈は、その比ではない。地形の険しさと壮大さには打ちのめされるような気分だった。

 

曲がりくねる川に沿うように進むようになると、インダス川とギルギット川の合流点に至る。ここには新しいモニュメントがあり、パキスタン人観光客で賑わっている。彼らは外国人が珍しいようで、「Chiese?」と話しかけてくるので「Japanese」と答えると「Oh! I love Japanese!!」などと嬉しそうな顔をする。日本の最近の惨状を見て彼らがその気持ちをなお持ち続けてくれる自信はないが、やはり高度経済成長期、日本人の果たした役割は大きかったのだろう。先人の偉大さと最近の日本社会のぶりのギャップは本当に頭が痛い問題である。

インダス川とギルギット川の合流地点

この地点からギルギット川を北上すると、1時間弱でギルギットの市街に到達した。辺りはすでに薄暗い。空港の近くにホテルがあるらしいが、ガイドはホテルの正確な場所を把握しておらず迷っていた。相変わらずこちらの不安と不信感を募らせてくれるガイドである。しばらく市街をぐるぐる回って、ようやく本日の宿、Kalisto Hotelに到達した。ホテルは2階建で1階に宿泊。部屋は広く快適であるが、自分の持っているeSIMはカシミールで電波を拾うことはできるが通信ができず、wifiを使用する。なおこのwifiからはtwitterを見ることができなかった。

客室

夕食もこちらのホテルに付属するレストランにて。相変わらず食事までガイドが一緒である。

夕食くらい一人でさせてくれよという感じもあるが、相変わらず大量に注文してこちらに食べ物を押し付けてくる。食べ物自体は美味しいのだが、押し付けられると食べる気が失せてくる。空気を読めとは言わないが、こちらの表情からこちらが何を望んで何を望んでいないのかくらいは理解してほしい。結局また大量の残飯を生成してしまい、レストランの人には申し訳ない気持ちでいっぱいであった。

 

明日はギルギットで磨崖仏を見たのちに、フンザ地方の観光の中心地、カリマバードへ向かう。