Le Chèvrefeuille

世界は遊覧、思い出の場所であり、われらは去りゆく者

オマーン(0) プロローグ

さて、そろそろ3年経ってしまったので、オマーン旅行についても記録を書き連ねていこう。

オマーンに行った目的、というかモチベーションは、まずはアラビア半島の国に行ってみたかったというのがある。アラビア半島といえばイスラーム揺籃の地。砂漠、聖地メッカのイメージ。しかしながら、オイルマネーで潤う湾岸諸国以外は、割と謎に包まれている。

アラビア半島の国といえばイエメンがまず思い浮かぶ。紀元前後からシバの女王の国として栄えた大変歴史のある地域である。幸福のアラビアとかつて呼ばれたイエメン、まるで砂糖菓子のような美しいサヌアの旧市街、そしてシバームの高層住居、さらにはソコトラ島の美しい自然が有名であるものの、今やソコトラ島以外には行けそうもない。もっともソコトラ島自体1週間に1本しかない飛行機で7日以上かけていかなければならず、今一つ時間対効果が薄い。実質的に当時(から現在に至るまで)イエメンという選択肢はなかった。サウジアラビアはメッカとメディーナという2大聖都を有し、イスラムワッハーブ派を国教とする厳格なイスラム教国で、最近は普通にツアーでも扱っているような国であるものの一般人に観光ビザが発給されはじめたのは2019年と日が浅い。メディーナは入れるようになったものの当時は入ることはできず、メッカはムスリム以外入ることはできない(まあ、改宗すればよい話ではあるが)。また団体旅行ではなくできればせめて個人手配旅行にしたいものだが、いかんせん観光地の間の交通手段、現地旅行会社、そのあたりの情報が極端に少ない。情報不足で外国に突っ込むのは蛮勇というものだ。しかしドバイやカタールバーレーンは歴史が浅く、あまりに芸がなさすぎる。

そういうわけで、現実的な選択肢の中から、アラビア半島でありながら18世紀ごろから海洋国家として栄えた独特の歴史がある国、オマーンを選択することにした。オマーンというのは案外興味深い国だ。イスラームが勃興してからほどなくしてその主流派から分かれた、スンニ派ともシーア派とも違うイバード派が主流であり、これはニズワを中心とした地域でもっとも盛んといわれている。イバード派イスラームの中ではかなり穏健だと一般的には言われており、祈りの方法も他の宗派と微妙に違ったりするらしい。

海洋国家として隆盛を極めたオマーンはアフリカのインド洋沿岸を足場にして貿易で栄えた。その影響がモンバサやザンジバルタンザニアでのイスラームの定着という形で認められる。一応小さな油田があり、そこそこ油田の恩恵を受けながらもアラブ文化を程よく維持し、現代に絶妙に適応している国という印象である。外交でも他のアラビア半島諸国とうまく付き合いながらもイランと外交を維持し、独自のポジションを築いてきた。その国際社会での立ち回りも独特のものがある。

 

オマーンに行ったのは2020年2月の終わりから3月の初頭。ちょうど3年ほど前である。3年ほど前といえばコロナがちょうど流行り始めたころ。2020年1月ごろから新型コロナウイルスという名前がちらほらと聞こえ始め、あっという間に世界を席巻した。ちょうどコロナで国境が閉鎖される直前に行った最後の海外旅行、それがオマーンであった。アニメでよくあるように、閉まりきる前のワープホールにギリギリで入り込めたような、そういう感覚だった。

時間がだいぶたってしまっているが、現在だからこそ吐露できる、客観的に書くことのできることもあるだろう。そういうわけで、(1)から実際に旅行記を書いていこうと思う。