2020/2/22
終日ニズワ観光
Antique Inn泊
本日は終日ニズワ観光の日である。
ニズワというのは案外歴史の長い都市で、6-7世紀にはすでにイスラーム主流派から離脱したイバード派が小規模な王国を構えていたという。それはオマーン全土を支配するには至らなかったものの、20世紀初頭にはオマーンの首都であったこともあったようだ。雄大なハジャル山地に抱かれ、オアシスに発展した町は緑色のナツメヤシの生い茂る中に土色の家屋が立ち並び、独特の趣がある。表題のような小京都というたとえが適切かどうかはわからないが、その歴史の長さや伝統的な町並み・雰囲気を表現するのに当たらずも遠からず、という感じがする。
Antique Innで朝食。朝食は景色の良い3階のテラスである。テラスからは土色のニズワの町並みが朝の眠そうな光に照らされている景色が望める。とても暖かみのある風景である。宿泊客はやはりヨーロッパ人が多いようで、ビュッフェにはヨーロッパの観光客がたくさん来ていた。
ホテルに荷物を置いて、気温が低い午前中のうちにさっと散策をしてしまうことにする。この砂漠の地オマーンでは昼間は行動するには暑すぎるのだ。間昼間には昼寝を敢行し、日が傾き始めてから再び行動開始というのが、砂漠の国の観光の鉄板である。
ホテルやその近所の家並みは、イエメンのサヌアのような絢爛で装飾的な感じは全くしない(イエメンには行ったことがないので、写真などから得た情報をもとに比較している。今は行きたくてもいけないが… あの国に訪れるのはイスラーム好きなら憧れだろう。私もそうである)。石を泥で固めただけのきわめてシンプルなものだが、それがナツメヤシの緑と調和して、美しい雰囲気を作り出している。比較的人通りの少ない町は静かで、落ち着いた治安のよい雰囲気が漂っており、安心して散策できる。
ニズワのスークを散歩してみることにする。宿から歩いて5分ほどのところにスークがある。車道沿いに土産物屋が並んでいるが、一番趣があるのはEast Souqだ。綺麗な土産物屋がある広場を通って、開門したばかりの門を通ってスークを散歩する。確かに人が少なくてよいのだが、開いている店もまだ少ないといった印象である。香辛料などを並べて売っている様子はいかにも中東といった感じでよい趣である。スークには前国王、カーブース・ビン・サイードの写真が大きく飾られていた。
ちょっと人が少なく物寂しいので、いったんスークを出てニズワ・フォートに向かう。こちらのフォート(城塞)は1650年代のヤアーリバ朝時代に建てられたものらしい。もちろんリストアされてかなりきれいにはなっているが、大きな城塞、様々な井戸や仕掛けがあり、一部の部屋は博物館のようになっており、たくさんの展示品がみられる。
フォートは迷路のようになっており、一部は上の方まで登ることができる。そこから眺めるニズワの町並みもまた大変美しい。まだ人が少なく、フォートからの景色を独り占めできた。
フォートはシンプルながら様式美があり、大変美しい。遠くにそびえる山々やモスクのタマネギ屋根、ナツメヤシの調和した風景は、その装飾の少なさからは想像できないような清楚な美しさを持っていて、思わずたくさん写真を撮ってしまった。
さて、ようやくスークが開いてきたようなので、近所の銀行のATMでキャッシングしてお金をおろす。お目当てはニズワの名産品、銀細工のハンジャルである。開店してきたスークは賑わいがあり、品物が雑然と、しかしながら様式美を以て陳列されている。
衣料品を売っているエリアをのぞいていると、店員とおぼしきパキスタン人っぽい雰囲気の人にターバンを巻かれ、ディシュダーシャを着せられた。ディシュダーシャは16オマーンリヤルだという。正直買ったところで使い道に窮するのは明白だったので買わなかったが、オマーン人のコスプレをして謎に自撮りをするイベントが発生して、ちょっとおもしろかった。
さて、何点か店を回ってハンジャルに目星をつけ、店に突入してみる。目星をつけに回っていた時に聞いた値段は200ORであったのに、こんどは350ORなどという。なかなか美しい銀細工であったので、できればこれを買いたかったもののこのままだとらちが明かない。ひとまず値段が下がらないのだったらほかの店で探すというと、250ORまで下がった。200ORにしてほしかったがまあいいやということで240ORで妥結。交渉に負けた感があるが、まあいいか。しかも折角銀行から金をおろしたのに結局クレジットカード決済OKだったというね。
購入したハンジャルをリュックに入れ、近場の軽食屋でパイナップルジュースとサンドウィッチを食する。観光客のヨーロッパ人がたくさんいて、そのうちのアイルランド人老年夫婦に「最近日本はラグビーが強いねえ!」などと話しかけられるが、いかんせんラグビーについて五郎丸の名前くらいしかわからないので、適当に相槌を打ってしまった。
そのほか、通り沿いの土産物屋でキーホルダーなどを覗いてみるが、店に来ていたヨーロッパ人観光客が、店員に「mumkin taSwiir?」などとアラビア語で話しかけていて、彼らはやはり外国語を学ぶことにあまり抵抗がないのだろうな、などと勝手に思った。
だいぶ暑さがこたえてきたので、町並みを散歩したのち、いったんホテルの部屋に戻る。
狭い部屋は冷房がよく効き、ハンジャルの銀細工の精巧さにうっとりしながらしばし睡眠することにした。しかしこれ、ジョジョの奇妙な冒険に出てきそうな雰囲気だな。
昼寝から起きると、もう午後4時を回っている。
少しずつ日も傾き、景色が少しずつ赤らみはじめた。少し眠いが、まだまだ町の写真を撮り切れていない。まずは朝購入したチケットで、ニズワフォートの再入場を試みる。受付のお兄さんは、「まあいいだろ」という感じで通してくれた。図々しくてすみません。
フォートから眺める夕暮れ時の景色は、朝と違った趣がある。とくに野焼きの煙が上がる風景、空気の匂いがどこか日本の田舎のような、懐かしい風情を醸し出していた。
ニズワフォートを出るころにはかなり日が沈み、次第に夜の帳が下りる。夜になっても治安が乱れることはなく、スークも安心して歩くことができる。太陽の日差しのないスークも、それはそれで趣深いものである。イランの夜のバザールのような電飾のにぎやかさはあまり感じられず、ここにもこの国の質実さがあらわれている。
本日も昨日と同じレストランで夕食。例の定位置で静かに夕食をいただく。ビュッフェ形式でたくさん食べられるのが大変ありがたい。
明日はオマーンの首都・マスカット方面へ移動の日ということで、早めに寝ることにした。
ニズワは小さな都市ではあるが、その質素で飾らない美しさは大変印象に残った。世界遺産になるような町は華美なものや贅の限りを極めたものがおおく、それはそれで美しく圧倒されるのだが、少し食傷気味になってしまうこともある。そういう時あまり多くの人の目を引かない、こういう素朴なものがかえって心を打つのだと思う。